パーソル総合研究所は25日、ジョブ型人事制度の実態に関する調査の結果を発表した。
- 調査結果概要
① ジョブ型の導入状況
従業員規模300人以上の日本企業において、ジョブ型人事制度をすでに導入している企業の割合は18.0%。導入を検討している企業の割合は39.6%。一方で、導入しない方針としている企業の割合は28.5%と3割程度であった(図表1)。
企業属性別にみると、従業員数が多かったり、子会社を抱えるグループ企業であったりするなど、企業規模が大きくなるほどジョブ型の導入・検討の割合が高くなる傾向にある。また、海外拠点があり、グローバル展開している企業の方がジョブ型の導入済み・導入検討の割合が高い(図表2)。
図表1.ジョブ型の導入状況
図表2.ジョブ型の導入状況(企業属性別)
② ジョブ型の導入目的
企業規模が大きいほどジョブ型の「導入済み・導入検討」の割合が高くなるのは、グローバルで人事制度を統一したい狙いのほかに、賃金が年功的になっている中高年層の処遇に対する課題感が強いことがある。ジョブ型導入の目的に関する調査結果をみると、「従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい」で65.7%、「若手の登用を促進したい」で45.1%、「組織の新陳代謝を促進したい」で44.6%、「年功的な賃金カーブを是正したい」で42.0%となっている(図表3)。
調査結果を基に分析(企業規模・業界の条件を統制した2項ロジスティック回帰分析)したところ、ジョブ型導入を検討している企業には、中途採用者の離職率が高く定着に課題を抱えている、デジタル・ITを重視しているといった特徴もみられた。ジョブ型導入により職務の市場価値に応じた報酬とすることで、人材の定着を図りたい、採用競争が激しいIT人材を確保したいと考えていることが推測される。
図表3.ジョブ型導入の目的(複数回答)
③ ジョブ型を導入しない理由
ジョブ型を導入しない理由としては、今の人事制度が自社のビジネスに適合しているとの回答割合が57.3%と最も高い。
図表4.ジョブ型を導入しない理由(複数回答)
④ 等級制度の適用状況
等級制度の適用状況をみると、一般社員には「能力」等級制度を、管理職には「職務」等級制度を適用している企業が多い。自社の職務・ジョブを序列化する職務等級制度はジョブ型の基礎となる制度であるが、労働組合との交渉の必要性の薄い管理職を中心に導入が進んでいる様子が伺える。
図表5.等級制度の適用状況(一般社員・管理職別)
⑤ 人事制度変更の障壁
人事制度変更の障壁について聞いたところ、1位は「経営層からの承認」で43.6%、2位は「労働組合との交渉」で40.4%、3位は「管理職層の抵抗」で38.9%となり、組織内の意見を調整する場面で苦労する傾向が強いことが伺える。
図表6.人事制度変更の障壁(複数回答)
⑥ 職務記述書の作成状況
ジョブ型で用いられることの多い職務記述書について、ジョブ型導入済みの企業では「ほとんどの職務に対して作成」との回答割合が過半数となった。導入済みの企業でも「定期的にはメンテナンス・更新されていない」との回答割合は27.9%であり、職務記述書の整備・メンテナンスが十分に行えていない企業が多い。
図表7.職務記述書の作成状況(ジョブ型導入済みとの回答者)
- 分析コメント~人事制度の変更のみならず、制度の「運用」の改善も選択肢の一つに~(上席主任研究員 小林 祐児)
昨今、ジョブ型雇用が耳目を集める中で、人事制度の改定や、職務等級の導入を検討している企業も多い。しかし、人事制度を変更するだけでより良い経営につながるのだろうか。
制度の「運用」について分析を行った結果、目標や処遇の分かりやすさなどの従業員に関わる制度運用面の特徴が、経営状態に対してプラスの影響をもたらしていることが明らかとなった(図表8)。ジョブ型の人事制度に関する理念的な議論が先走る中で、より実証的な知見の蓄積が望まれる。
人事制度を変更するには、様々な組織・人との相当な調整コストがかかる。ジョブ型に適した企業であればそうした労力をかけてでも変更に踏み切ることは重要だが、経営・人事として最適な人材マネジメントを検討する場合は、一足飛びに人事制度の変更に取り掛かるのではなく、まずは制度運用についての現状把握とその改善から着手してみるのも選択肢のひとつだろう。
図表8.制度運用の特徴が事業・経営に与える影響
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