世界におけるアフターコロナ市場におけるホテルの不動産賃貸借契約型運営方式の調整について調べてみた結果、以下のとおりでした。
特に固定賃料が賃貸人に重視されるケースでは、それを抱える賃借人が大変な影響を受けています。一方で、賃貸人側にとってリテナントも難しい状況にあります。このような状況を背景にして、ホテルの不動産賃貸借契約に対する様々な調整が図られています。
コロナ禍以前より、できるだけ将来の支払い賃料に基づく負債計上をしたくないホテル経営会社側から不動産賃貸借契約型運営方式は敬遠されつつありましたが、今回のパンデミックによりさらにその傾向が強まったといえます。
今後の大きな流れは、事業収支の開示及び事業内容の透明性の向上及び、それらを背景とした積極的な賃貸人側の事業関与及び歩合賃料の導入が予想されます。
コロナ禍において海外でみられる主なホテル不動産賃貸借契約の調整内容をみると以下のとおりでした。
・賃料支払いを一定期間免除しかつ免除期間を反映して賃貸期間を調整する。
・賃料の繰り延べをし、その分を将来、金利を含めて償還する。
・採用されている賃料比率や賃料割合を調整する。
・固定賃料について、中立の第三者評価機関による妥当性の検証を行い、定期的に調整を行う。
・RevPAR指数を用いた固定賃料調整機構を導入する。
・賃貸人側の期待利回りを調整する。
・固定賃料割合を減少させ、歩合賃料割合を増加させる。
・賃貸人側(所有者)は、積極的に価値向上策を模索する。
・賃貸期間を短期とすることで、賃借人側のリース負債を軽減する。
・賃借人側から提供可能な賃料保証に関連する事項を精査し取り入れる。
・賃借人(経営者)のホテル事業収支を開示し賃貸人側でのリスク分析を強化する。
・賃借人(経営者)は、運営者によるストレスチェックを得て、積極的に賃貸借契約条項の検証を行う。
・運営者による必要な賃貸借契約条項の確認を即す。
・客室部門と料飲部門の歩合賃料比率を調整する。
・ホテル事業リスクを軽減するため、料飲部門のサブリースを可能な限り行う。
・賃貸人(所有者)側は、今回のパンデミック及び同様のインパクトを持つと思われる事象が生じるリスクを改めて考慮した投資姿勢をもち、事業リスクに応じた契約条件を追求する。
・事業継続上、必然性をもって積極的に歩合賃料を導入する。
・賃料支払い上限(Stop mechanisms)や事業撤退条項(Go-dark clauses)を検討する。
・これまで多く見られた不可抗力条項(Force majeure clauses)を撤廃し事業リスクとして考慮し契約内容に織り込んで対処する。
上記のとおり、今後の宿泊施設投融資マーケットでは、宿泊事業に知見を有する投資家は、積極的に事業に関与することで、逆に事業リスクをコントロールしようとするでしょう。賃貸契約方式では、特に賃料条件で、ハイブリッド型賃料が増加することになります。賃借人側では、年度予算の作成及び成果としての収支報告を、透明性をもって行うこと、また、固定賃料水準の年度調整等について第三者評価が重視されるマーケットに短期的にかつダイナミックに移行すると考えられます。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史