新型コロナウイルスの病理性に関する報告も相次ぎ、神経細胞への影響、全身の血管血栓を通じた臓器への影響、感染細胞死による病理性、重篤化した場合の自己免疫発症、高い割合で生じるLong COVID等その恐ろしさが徐々に浮き彫りされました。また、ウイルスの生活環やウイルス変異の傾向や特徴解明も進みました。
2021年9月22日、オックスフォード大学のワクチン研究者より、「スパイクタンパク質が人体細胞に浸透するには、細胞表面のACE2受容体と相互作用をしなければならないため、ウイルスが完全に変異することはできない。ウイルスが人体の免疫力を避けながらも、依然として伝染性の強いウイルスになりそうなところが、それほど多くない。新型コロナウイルス感染症は結局、普通の風邪や呼吸器感染を引き起こす、他の季節性コロナウイルスと似てくる。」とも指摘されています。ワクチンについては、2021年5月以降世界的にデルタ株がまん延してから、その感染防御力が低下したのもたしかです。ただし、ワクチンの重篤化予防効果は依然として高いこともその後判明しました。抗体価(抗体量)が低下するものの、一方で、キラーT細胞(ウイルスを駆逐する細胞)が増加しているとの調査結果も報告されています。ウイルスの増殖を防ぐ化合物の発見や効果の高い抗体(ハイブリッド免疫、交差免疫、感染者がワクチン接種した場合の超人的免疫、ヒトモノクローナル抗体「NT-193」等)も発見されました。ブレイクスルー感染が生じ、3度目のブースターワクチンが議論に上がっていますが、5歳から11歳の小児に対するワクチン効果や3度目のワクチン接種によりウイルス量(Viral loads)を大きく低下させうることが判明するとともに、係るリスクと効果を慎重に見極める研究報告が相次いでいます。
新型コロナウイルスの変異は、ゲノム塩基(それが3つセットとなりアミノ酸となり、さらにはそれらが固まりを形成しタンパク質となる。)であるシトシンからウラシルへの変異が多く、そこにはヒト細胞が有するRNA編集酵素が影響していること、つまり、新型コロナウイルスは、感染後にヒト生体防御機構による排除の選択圧を受けることで、ゲノムに変異を入れて変化し続けているとも報告されています。今回のウイルスが感染するヒトの受容体は特定されており、無尽蔵に変異すると感染できなくなるため、変異の幅も限定されているようです。変異の傾向は、結局は、ヒトの免疫回避に進む傾向があり、その結果、感染力は低下することが予想されます。ウイルスが増殖するために必要なタンパク質を阻害する経口薬も近く得られるはずです。つまりは、パンデミックは落ち着くと思われるものの、ウイルスとの共存も覚悟しなければならないということでしょう。つまるところ、ようやく、出口が見えてきたといえそうです。そのような環境において、改めて宿泊施設の存在感が注目されるはずです。例えば弊会が実施した調査では、以下のように、宿泊施設の印象が、地域の観光の魅力度にも影響を与えていることが窺えました。「これまで旅行して「良かった旅行」を想定してください。その旅行先の滞在ホテルの印象が「悪かった」場合どのように思いますか。」この問いに対して、78%の回答者が全体の旅行工程の印象が悪くなると答えています(全国男女200名に対するインターネットアンケート調査結果、2021年9月弊会調べ。)。観光地の印象が「普通」であったとしても、宿泊施設の印象が「非常に良かった」場合、再来訪意欲を有する人の割合は68%という結果でした(観光地:普通、宿泊施設:普通の場合は19.5%)。観光市場において大きな存在感を有する宿泊施設であるからこそ、今後ますます、安全・安心・誠実な運営が、改めて問われている環境になっているものと考えられます。
使用している消毒薬剤は適切なものでしょうか。客室消毒は適切な手順でなされているでしょうか。顧客に対する感染症対策だけではなく、清掃スタッフに対する感染対策はできているでしょうか。それらは、けっして容易なことではありません。ありませんが、顧客がそこを見つめていることを皆様には是非とも改めてこの重要なタイミングにおいて意識していただければと思うのです。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史