【マンスリーリポート 観光の現場 流れを読む 17】じわり広がるガストロノミーツーリズム


 「ガストロノミーツーリズム」がジワリと広がりを見せている。2016年10月には一般社団法人ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構(会長、涌井史郎・東京都市大特別教授)が設立され、普及に向けた体制が整った。訪日外国人観光客も視野に入れたニューツーリズムの動きを探った。

 「知恵蔵」によると、ガストロノミーという言葉は古代ギリシャ語の「ガストロス(消火器)」と「ノモス(学問)」が語源という。美食学や美味学などと訳され、生理的のみならず精神的にも意義を持つ食の営みを研究し、おいしさを作りだす技術を、理論で裏付けるものだ。

 ガストロノミーツーリズムは地域に根ざした食や自然、歴史などの魅力に触れることを目的とした旅のスタイルで、欧米を中心に世界各国に普及している。これに日本が誇る「温泉」をプラスした新しい体験が「ONSEN・ガストロノミーツーリズム」。

 同機構は「ONSENとしたのは海外からの観光客にも温泉の魅力を広く発信していきたいという思いから。SUSHIやNINJAのように、ONSENが日本の魅力を表す国際語になるようにという願いを込めている」と話す。

 同機構は歩きながら温泉や食を楽しむイベント「ONSEN・ガストロノミーウォーキング」に力を入れており、16年11月には世界初となるONSEN・ガストロノミーウォーキングが大分県別府市の海岸沿いで実施された。約300人の参加者が別府の自然や名産、温泉を満喫した。

 昨年1年間では全国13カ所で実施され、約2600人が参加したという。

 昨年12月の年末総会であいさつした涌井会長は「17年は月に約1回のペースでイベントを開催できた。18年も大分や岐阜で大規模なイベントを計画している。今では全国から多くの実施を希望する声をいただいている」と述べ、関心が高まりつつあることを強調。

 昨年11月、同機構や三重銀行、第三銀行などが三重県の観光を振興するため連携協定を結んだ。ガストロノミーツーリズムを活用し、地域活性化につなげる試みで、食と温泉など地域資源を生かした観光振興や海外からの誘客を図る。

 具体的には、今年開湯1300年を迎える湯の山温泉(菰野町)の記念事業を活用した取り組みなどがある。

 大分県もインバウンド向けの観光振興策としてONSEN・ガストロノミーツーリズムを活用する意向だ。今年5月の世界温泉地サミット(別府市)などを控え、市町村などと連携して県内での活動を広げる考えだ。

 新潟市もガストロノミーツーリズムの推進に熱心で、昨年4~6月には「日本初」(同市)というレストランバスを運行した。バスは1階がキッチンになっていて、観光地を訪ねながらオープントップの2階席で食事を楽しむ。ウィラーが開発した。

 シェフが地域の食材でコースを仕立て、移動中に料理を提供する新しい旅のあり方で、今後どういった広がりを見せるのか注目される。

 コースのうち、例えば「福島潟 米文化堪能コース」(料金1万5120円)は、酒蔵見学や試飲、福島潟の散策、収穫体験を盛り込んだ。このほか、「佐渡・日本海 砂丘堪能コース」「みなとまち新潟市水と都市の夜景ナイトクルーズ」などを設定した。

 
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