【マンスリーリポート 観光の現場 29】根付くか、新たな旅「AT」 


経済波及効果の高さ魅力 国際サミット誘致の動きも

 
 旅の楽しみ方が増えている。最近では「アドベンチャートラベル〈ツーリズム〉=AT」という言葉を耳にするようになってきた。自然や異文化体験を組み合わせた旅行スタイルで、欧米圏などの富裕層を中心に人気が高まっているという。日本でもAT推進の動きがあり、普及に向けた取り組みが始まっている。

 昨年9月、北海道経済産業局がATの最大機関、アドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)を招き、札幌市内のホテルで「アドベンチャーコネクト」を開いた。

 アドベンチャーコネクトは、ATTAと地域が連携して開催する、AT関連事業者間の情報交換、ネットワーキングを目的としたイベント。欧米を中心に40回を超える実績があり、日本では17年に続き、北海道で2度目の開催となる。

 会合ではATTAが北海道の優位性や改善点をアドバイスするとともに、道内関係者はAT市場の全体像、旅行者の特徴、最新動向などを学んだ。

 ATTAはATについて、「アクティビティ、自然、異文化体験の三つのうち、二つ以上で構成される旅行」と定義。JTB総合研究所は、「自然や異文化といった軸ではエコツーリズムやグリーンツーリズムと共通項を持つものの、レジャーとしての楽しみが中核にあるため、観光客がより積極的にお金を費やすだけの魅力が備わり、市場が他者より大きく拡大してきたと考えられる」としている。

 昨年4月、自然とアイヌ文化を生かしたATを展開する「阿寒アドベンチャーツーリズム」という会社が発足した。阿寒湖温泉地区の地元企業などが中心となって設立、社長には鶴雅ホールディングス社長の大西雅之氏(NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構理事長)が就任した。

 同社は今年7月から、体験型観光コンテンツ「阿寒湖の森ナイトウォーク カムイルミナ」を開始。デジタルアートでアイヌ伝説の世界を表現するストーリーで、プロジェクション・マッピング、光や音のデジタル技術で演出された遊歩道約1.2キロを歩く。

 市場の有望性を見込み、昨年9月にはJTB総研と阿寒アドベンチャーツーリズム、長野県観光機構による「日本アドベンチャーツーリズム協議会」の設立が発表された。当初、今年4月に設立される予定だったが、もう少し時間がかかりそうだ。

 ATは富裕層の旅行者の割合が高く、長期滞在の傾向にある。アウトドアギア(用具、装備)へのこだわりも強いため、経済波及効果は北米、欧州、南米の主要地域では推計4500億ドルと推計されている。

 日本国内のAT市場は規模はまだ小さいが、日本固有の自然、文化資源を生かした商品開発、受け入れ態勢などが整備されれば成長性は高いとされる。

 今年5月23日には、北海道などがATの国際サミットを21年に道内に誘致する方針を表明。鈴木直道道知事や田端浩観光庁長官ら関係機関の代表者らがATTAのシャノン・ストーウェル最高経営責任者(CE0)に招請書を手渡した。鈴木知事は「北海道はATに必要なコンテンツが詰まっている。アジア初の開催に向け努力したい」と語った。

 JTB総研は、「従来は観光地として注目されてこなかった日本の地域が新たに脚光を浴びる可能性も十分にある」と踏む。地域資源を生かし、どうATを確立していくか。地域観光活性化の有効な選択肢といえなくもない。

【内井高弘】

 
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