現代の仕事観つかみ、理解される受け入れ体制を
――宿泊施設やリゾート施設向けに特化した求人サイト「リゾートバイト.com」を展開されている。
「今から22年ほど前にサービスを開始した。『夢の実現を応援する』というコンセプトで運営しており、今でも変わらず10~30代の若者、特に学生やフリーターが多く利用している」
――応募者に見られる主な特徴は。
「留学や一人暮らしなど自分の夢の実現に向けて貯金したいと考える若者がメインで、実際に当社もそれを推奨している。ここ数年は10代の層が増加傾向。住み込みで働くため、効率的にお金がたまるといったメリットがある。また、最近は接客業にも慣れているシニア世代の応募も増えてきている」
「短期間雇用では友達同士などのグループ募集が多く見られる。彼らは『宿泊業を体験してみたい』という動機が多く、逆に貯金目的での応募は1人で応募の傾向が強い」
――宿泊業界の人手不足問題について、原因をどう捉える。
「コロナ禍で多くの宿泊事業者が非正規雇用者を削減した。コロナが収束すると、円安も相まってインバウンド需要が急回復。人材の供給が追いつかず、少人数でなんとか需要に対応している状況が、昨今の人手不足の実情だ」
「需要が戻っても『また何かが起これば切られるのでは』という負の印象が残ってしまった点も要因の一つだと聞く。特に地方部では、そうした悪いイメージはすぐに広まってしまう傾向がある」
――地方での人材確保が深刻化している。
「働き手となる若者が都市へ流出している点に加え、報酬の低さや土日祝日に休めない(友達と遊べない)といった理由も大きく影響している。新卒を採用しても離職率が高いのはこうした心理的要因もあり、少子化でこの傾向は加速している」
「地方の宿泊施設にとっては、いかに都市の若者を呼び込むかということが重要になってくる。そこで働き、地元を観光してもらうことで経済が潤う。就労をきっかけに新たな出会いもあるだろうし、気に入れば移住もできるなど、地方活性化の好循環が生み出せる」
――「リゾートバイト.com」の導入施設で、特に人気の施設の特徴は。
「冬季のスキー場が特に人気。人気の施設は総じてマーケティングがうまい。短期間雇用やグループ応募もOKにするなど、若者の希望に添った条件で応募がたくさん集まったりする」
――今年6月には山梨県の旅館「鐘山苑」と共同で「1泊2日リゾートバイト体験パック」を導入した。
「首都圏からも足を運びやすいので、まずは短期間で業務を体験してもらい、宿泊業に興味を持つきっかけとしてもらうことを目的に開始した」
「最近の応募者の傾向として、就労期間の短期化が目立つ。特に若年層に見られる傾向だが、自身の体力以上に働くことに抵抗感が見られる。長時間労働を前提とする求人は、従来よりも敬遠されやすくなっている」
――温泉旅館などはどう見られている?
「残念ながら仲居さんの求人は年々人気が下がっている。格式高い旅館などは着物で業務することが多いが、『準備に時間がかかるのでは』という現実的な考えをする人が増えている。失敗が許されないイメージもあるという声もあり、こうしたプレッシャーを感じる応募者は一定数いる」
「ただそうした施設で良いサービスを身に付け、スキルアップを図る応募者がいることも事実。最近はインバウンドも増え、語学力を生かして働く人もいる。そうした強い意志を持つ人にとっては最適な環境だと思う」
――宿泊業を体験した後、楽しさを知って再度応募するケースは。
「かなり多い。リピーター応募者は、就労実績があり施設からも信頼性が高く、経験者・即戦力として評判がよい」
「アルバイトを経験して、宿泊業を目指すようになった人もいる。当社では、毎年数十人ほど正社員登用される人がいる。彼らは以前から興味を持っていたわけではなく、就労先の施設のコンセプトやビジョンなどに共感して入社するケースが多い」
「少子化が進む現代は新しい人材を確保するのに限界があり、今いる従業員をいかにして守っていくかが大事だ。最近はSNSなどで宿泊業の従業員同士が簡単につながれる時代。良い施設があればそれが口コミとなって広がっていき、そこに人が集まる。逆もまたしかりだ」
――今、旅館ホテルの経営者が取り組むことは。
「働き手の仕事観に関するトレンドをつかみ、ビジョンをしっかり共有すること。教え方にも工夫が必要だ。近ごろの若年層の方はリスク回避志向が強い傾向もあり、『教えられていないことに不安を感じる』という場合も多い。こうした価値観に理解を示さず、従来のやり方を続ける施設には人は集まらない」
――旅館ホテル経営者への提言があれば。
「体験枠での短期間採用やシルバー世代の雇用など、長期採用以外にも募集の幅を広げてみると、今まで想定しなかったような人が就労するケースもある。従業員に理解される受け入れ体制を築くことで、良い口コミが広がり人材が集まるとよいと思う」
グッドマンサービス代表取締役・月花拓美氏
【聞き手・編集部記者 水田寛人】