【体験型観光が日本を変える 122】低下する対人関係能力 体験教育企画社長 藤澤安良


 トランプ米大統領を乗せた飛行機が飛び立ったが、民放のテレビ画面は、川崎市で通学時間帯に小学生ら19人が男に包丁で刺され2人が死亡し、犯人も自殺するという大変凄惨(せいさん)な事件の顛末(てんまつ)を追いかけていた。午後には、さいたま市で刃物を振り回していた男が、警察の拳銃を発砲し、死亡するという言いようのない事件が起こった。

 模倣犯なのか、連鎖なのか。両方とも容疑者死亡であるが、動機の究明が待たれる。しかし、その後はテレビでは再発防止対策などが論じられていたが、これまでに何回も無差別に切りつける事件は起こっている。状況からして、よろいかぶとでも身に付けなければ防ぎようがない場面である。

 容易に人を殺そうとする原因側の人間がこれ以上現れないように社会が変わらなければならない。少なくとも、社会に感謝し心豊かに生きている人間ではなさそうである。

 増え続ける虐待・DV、まだ行われている学校での体罰、不登校44万人、芸能界や官僚にまで及んでいる麻薬所持、相次ぐ交通事故、無謀なあおり運転など、命にかかわる事件が後を絶たない。自己中心で相手や社会に及ぼす影響を考えない行状である。

 戦後74年目を迎えようとしている。食料や物のない時代から、物があふれ、便利になり、その分野では豊かになったかのように見えるが、食品ロスは増え続け、「もったいない」精神はどこへ行ったのか。何より、人間としての心の豊かさが失われつつあるのではないか。

 親子や家族は仲がいいのは当たり前、学校はみんなが行きたい場所にしなければならない。社会でのモラルやマナーは守るのが当然であり、人を傷付けたり、命を奪ってはならない。また、自らも命を絶ってもいけない。命の尊厳は人間として当たり前のことである。人間同士のコミュニケーション機会が著しく減少していることから、すぐ切れるし、ところかまわず言葉を選ばず、浅はかな行動に出るなど、対人関係能力が低下している。

 世界保健機構(WHO)がゲームのやりすぎで日常生活に支障を来す「ゲーム障害」を新たな依存症として加え、国際的に病気と正式認定する見通しとなった。また、米国で殺人事件が起きた際にゲームと結び付けて議論されることがある。持論ではあるが、あまりにも殺し合いゲームが多いのが気に入らない。バーチャルとリアリティの境界が分からなくなるという懸念がある。

 1日は24時間しかなく、ゲームに費やす時間と子どもなら学習時間との兼ね合い。大人なら趣味や読書は当然ながら家庭の時間が減少するのは明らかである。人と自然とかかわるほんものの体験が大人も子どももほとんどなく、AIやバーチャルゲームに時間を支配され続けていけば、人と人との社会、人と自然との共生が危うくなるのは当然である。
 今こそ、家庭での余暇活動や行楽に、学校教育で、職場関係に、企業研修にと、あらゆる場面でゲームよりもスマホやパソコンとにらめっこする時間を、体験活動の時間にシフトしなければならない。

 つまりは、体験教育を通じての人間教育こそ全ての原因の根源にある。1964年、東京オリンピックの年度に卒業した小学校の同窓会の開催通知が届いた。当時は、校庭でみんなで走り回って遊び、休日には野山や川や田畑で遊び農作業を手伝っていた。人と自然とのかかわりと体験ばかりであった。不登校もいじめも知らない時代であった。懐かしさと、現代のむなしさが交差する。

 
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