【体験型観光が日本を変える 123】働くということ 体験教育企画社長 藤澤安良


 川崎市の小学生らの殺傷事件で自殺した51歳の犯人は、家族以外に対外的な接触はほとんどなく、所持品はテレビとゲーム機だったとの報道があった。その後、都内で元エリート官僚の父親76歳が長男44歳を殺害したニュースは日本中を震撼(しんかん)させた。ひきこもり、家庭内暴力から対外的な危害、つまりは殺人になる事態に及ぶことを懸念しての苦渋の選択であったとのこと。

 詳細は捜査を待つとして、働かず、家族とも孤立している状況は、仕事と家庭の両立やバランスが論じられ、働き方改革などの以前の問題であり、仕事と家庭の両方がないことになる。この事件の直後に内閣府の調査結果が発表され、40~64歳までの、いわゆるひきこもりと呼ばれている人が推計で61万3千人にも上るとされた。

 同時に、50代のわが子を80代の親が面倒を見なければならない「8050問題」が取り沙汰されている。さらに5日、警察庁のまとめで、昨年の殺人事件の摘発では親族間の殺人がほぼ半数の47.2%にも及んでいると分かった。何とも悲惨であり残念な結果だ。

 家庭があっても仕事がなければ貧困になり、子育てもままならない。世界中にあふれる失業者の問題は、単に経済の問題ではなく、社会システムの問題として政治が動かなければならない。一方で、国内では労働者不足で倒産する中小企業も続出している。54万8千人の労働者が不足しており、外国人就労者30万人を目指すとしているが、日本の完全失業者数166万人にも上っている。不足数の約3倍である。

 難しい問題だと手をこまねいている場合ではない。つまりは、身体的な病気は別として、働きたくない、人と関わりたくない、楽な方がよい、やりがいがある方がよい、給料は高い方がよいという要求が多いばかりでは、労使のニーズがマッチングしないことになる。働き方の前に働く意識改革も必要になる。さらには、学校教育においても学力学歴が偏重され、人間力の前に学歴があまりにも役立たないことが証明されている。

 若い世代が同じ轍を踏まないためにも、教育現場は雇用現場が求めている人間関係構築能力、コミュニケーション能力、働く意欲などの人間力向上に力を入れなければならない。学校の教員の多くは教科学習は教えられてもその分野は無理であることから、社会に頼る必要がある。教科学習をおろそかにしろとは言わないまでも、優先順位は明らかに人間教育である。それは、ハウツー本でもパソコンやスマホでも学べない。生身の人間とどれだけ多く関わるかが鍵となる。

 体験教育はまさにその特効薬といえる。修学旅行等の特別活動の時間を大幅に増やすべきだ。観光旅行もテーマパークや遊園地もいらない。農山漁村での自然体験や人との関わりを持つ体験がその人の日本を変えることになる。日数や時間が取れないなどと言っている場合ではない。殺人や自殺につながらない命の尊厳と労働の義務に関わる「生きる力」の問題である。

 
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