【体験型観光が日本を変える 140】大型クルーズ船に乗ってみた 体験教育企画社長 藤澤安良


 大型のクルーズ船が日本各地に立ち寄り地域観光を刺激している。当方も、13万8千トン規模で、約4300人が乗船できるパナマ船籍で地中海の運営会社の大型クルーズ船で日本一周の旅に出た。この時の乗船客は3千人ほどだった。

 第1寄港地である秋田港に到着した。なまはげ、小野小町、秋田犬、秋田舞妓、ゆるキャラと、ラインナップ勢ぞろいでの歓迎を受けて上陸した。オプショナルツアーやシャトルバスなど約50台の観光バスが並んでいる。クルーズ客の特典は土産品店や入場券などの割引で、特別企画なども用意されている。

 1日の滞在で交通費・食事代・入場料・土産代など約1万円を消費した。遠出をした人やオプショナルツアーを利用した人では1人あたり3万円近くになる。つまり、1日の直接経済効果として数千万円に及ぶことになる。受け入れ地域の力の入れようが、今風に言えば半端ではない理由でもある。

 出港時にも多くの地元の人と花火の大輪に見送られて港を後にした。港から送る側と船の乗客と互いに「ありがとう」と大声が飛び交っていた。実にほほえましい光景である。

 秋田港から函館に向かう予定であったが、出発前から懸念されていた超大型で猛烈な勢力を維持した台風19号が、東京を直撃しそうな予想天気図になっていることから、その台風の影響を避けるために、函館と金沢が抜港となり、予定外の下関に向かうこととなった。

 函館の海鮮丼や金沢近江町市場の寿司(すし)を楽しみにしていたが残念である。

 台風の方向に向かっていて、日本海も白波が立ち始めているが、さすがに大きな船だけあって大きな揺れはない。何種類もの食事場所での食事や飲み物はほとんどフリーであるが、外国船だけに、いずれもとてもおいしいものはついぞ探せず、寄港地の秋田の寿司と稲庭うどんの方がおいしかった。

 あくまでも、日本人にとって、いや私にとってだが、日本の地方の食ほどおいしいものはない。日本の食の再確認の旅でもある。乗船客の9割以上が60歳から80歳代の高齢者であり、若い人は全てスタッフである。10日間に及ぶ休暇と少しの余分なお金を持っていなければならないことからも、リタイア組でなければならない。客室でパソコンを打っているのは私ぐらいであろう。

 ゆったりとした船旅なのに、3千人の中には日本人なのに列の横から入る人も、かき分ける人もいる。年は取りたくないものだと思う瞬間である。さすがに、電波の届かない洋上であるが故に、スマートフォンとにらめっこする人はおらず、都心の山手線の光景とは全く違う。若者なら耐えられないのではと思う。

 「1日中海を眺めて、人生を振り返る機会である」と、誰だか知らないおじさんが言っていた。非日常であり、食べて飲んで、遊ぶことしか考えないのはぜいたくと思う人もいるだろう。リピーターも多くなるだろう。地方の生き残りのために、港ごとのオプショナルツアーは物見遊山から脱却し、体験交流に変える必要があることを実感する機会となった。

 
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