【体験型観光が日本を変える328】料理にプライドを持とう 藤澤安良


 観光地は道路も土日休日に集中している。それを避けて平日に出かけることにした。箱根と鎌倉は平日にもにぎわいを見せていた。お客の中心は仕事をリタイアした高齢者とインバウンドが中心になる。

 箱根湯本から箱根登山電車に乗り、強羅からケーブルカーで早雲山へ、さらにゴンドラロープウエーで大涌谷経由の桃源台、芦ノ湖を観光船に乗り箱根町に向かうというゴールデンコースである。箱根町から熱海へは路線バスで向かった。

 次の日は東海道線と江ノ島電鉄で鎌倉の長谷寺と鎌倉の大仏(高徳院)、鶴岡八幡宮を訪ねた。箱根も鎌倉も日本人を上回るとも思える外国人の数に圧倒されてしまう。さながら海外旅行をしている気分である。

 日本人の国内個人旅行はマイカーやレンタカーでの移動が多いことからも、箱根の多様な乗り物も江ノ電などの公共交通機関はインバウンド客が圧倒的に多い。箱根のゴンドラでは10人程度の席には他には3組いたが全て別の国の外国人であった。日本の物価高と個人消費の落ち込みが顕著に表れた形である。

 熱海温泉では往年の有名ホテルでバイキング料理である。メニューは50種類をはるかに超えていたが、業務用がかなり多い。料理人が包丁も煮炊きもせずに器に盛り付けるだけの料理が半数以上であった。

 残念なことではあるが、見方を変えれば、何種類かは作っているということになる。立派とは言えないが、品数の数量を稼ぐためには人手不足もありながら頑張っていると見るべきかもしれない。

 一方、田舎の3セクの宿や公共施設では指定管理を受ける専門業者が、業務用の出来合いの総菜ばかりを並べている施設も多い。それは地産地消どころか、外国産食材のオンパレードとなる。

 地域振興を旨として建てられた施設が、地域の活性化どころか地域を蔑ろにし、他国を利することがあれば本末転倒である。ましてや、インバウンド客はそれらを求めていないことは明らかである。

 過日も、地産地消にはほど遠い松前漬けとホタテがついていた。中国が日本の魚介類を禁輸していることもあり、応援する意味での消費かと思いきや、その食材も隣国の大国と思われる。さらに、その架空の美談に大水を差すのが、中国産のウナギとアユを使っていることだ。

 理念もなく地方の宿泊業の根幹を揺るがすような珍事であるが、こんな話は全国他にもありそうだ。

 料理人が生産者や産地を訪ねて食材を吟味することなく食材納入業者に丸投げであり、産地や生産プロセスまでこだわっていないことにある。このような体たらくで旅の醍醐味(だいごみ)である郷土の味覚が味わえないなら旅行客のニーズには応えられず、当然、インバウンドも泊まる施設にはならない。

 刺身と肉がおいしいだけなら料理人はいらない。煮物、和え物、酢の物、炒め物、天ぷら、茶碗蒸しは地域の郷土料理を作るおばちゃんのほうが上手である。そのほうが適任である。インバウンドの地方への分散が急務であることからも、経営者の姿勢と料理人の自戒を促したい。

 
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