ネットで初めてその姿を見たとき、ド迫力のビジュアルにくぎ付けになった。皮がおいしそうなあめ色に焼けた丸鶏が、BBQグリルの網の上に鎮座していたのだ。通常、横になっているローストチキンが、縦に腰かけたような状態で立っている。その支えは缶ビール。半分飲んだ缶ビールを尾の部分から差し込んで丸鶏を立たせると共に、ビールの蒸気で軟らかく焼き上げる、まさに一石二鳥だ。
超魅力的なこの「ビア缶チキン」、試してみるしかない。だがそこには、いくつかのハードルが。1~2キロもある丸鶏、やはり缶だけで支えるのは難しいようで、さらに缶を支える専用のホルダー「ビア缶チキンスタンド」が必要らしい。
下から炭火で焼き、鶏肉に何か被せれば蒸し焼きになるワケだが、その覆いも問題だ。ふたつきのBBQグリルがあれば良いのだが、チキンを立たせるとなるとそれなりに高さがないといけないので、かなり大きなグリルでないとダメ。だけど、お値段が張る上置き場所がないから難しい。
BBQの本場アメリカのメーカーの、5万円近くする大型グリルが欲しかったが、「またそんな物買ったの?」と母の不興を買うのは間違いないので諦めた。そして価格が安いだけでなく、コンパクトでしまいやすいモノを探すことに。
結局、組み立て式で小さく畳めてたき火台にもなるという4千円台のBBQコンロと、ビア缶チキンと薫製ができる5千円程度のスモーカー、そして400円台のビア缶チキンスタンド、締めて1万円以下で調達できた。とはいえ、ふたの代わりにブリキのバケツや一斗缶、植木鉢などを使う達人もおられるようで、オヌシまだまだよのぉ、という声が聞こえてきそう。
梅雨の合間の好天を狙って丸鶏を準備。肉が軟らかくなる、塩分糖分濃度それぞれ5%のブライン液に前夜から浸け込み、いざビア缶チキンづくり! まずは妹と庭で火起こし。愛用の小さなBBQコンロで慣れたのか、大き目のグリルは初めてなのに順調だ。
丸鶏にオリーブオイルやスパイスを塗り、スタンドに入れたビア缶に尾の部分を差し込むと、まるで腕を頭の後ろに組んで、足を投げ出して座っているかのよう。艶(なま)めかしいスタイルに思わず爆笑…と、そこまでは良かったのだが。
普通なら、1時間半から2時間で焼けるハズなのに、全くその気配がない。あの憧れのあめ色はどこへやら、皮はいつまでたっても色白のまま。途中ふたの上にも火のついた炭を置いたのだが、効果ナシ。最終的にオーブンへ移動、やっとありつくことができた。
敗因は火力の弱さ。缶の中のビールも、蒸発せず残っていた。これじゃあビア缶チキンの意味がない。毎年クリスマスにローストチキンを作っている割に、丸鶏を甘く見ていた。まぁ、誰でも失敗はあるさ、とかぶりついた手羽先は、ほのかに炭の香りがして、豊かな味わいだった。次回はもっと炭をいっぱい投入して、あのあめ色を目指すぞ!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。