旬を迎えるのが楽しみな食材たち。中でも今、鮎(あゆ)がおいしい時期。例年、初夏から秋口まで、鮎釣り名人の知人がたくさん送ってくださるのだが、コロナ禍に突入した昨年以降、旬の便りは届いていない。ご高齢ということもあり、不要不急の外出を控えられているのだ。
「今年、まだ鮎食べてない」と妹が言い出した。確かに、あのスイカのような芳香をしばらく嗅いでいない。考え始めたら無性に食べたくなって、速攻で通販を検索したところ、天然鮎のお値段にビックリ! 1キロ10尾程度で1万円前後!
仕方なく、琵琶湖に流入する安曇川(あどがわ)近くの養殖場からお取り寄せすることに。養殖でも香りや味が良いと評判で、主な取引先は京都の料亭だという。冷凍物が多い中、活(い)け締めの氷詰めなのも決め手になった。
保冷ボックスで到着した鮎は、美しく黄金色に輝いていた。パッと見天然物に遜色ない。ただ、顔つきはやっぱり違う。天然の鮎は岩石の表面のコケや藻をこそげ取って食べる。岩に「食(は)み跡(あと)」と呼ばれる形跡を残すほど力を入れるので、顎が発達し、尖った精悍(せいかん)な顔になる。だが人間に与えられた餌を食べている養殖鮎は、顔が丸っこいのだ。
いずれにせよ、予想以上に良質の鮎が入手できたので、炭火で焼くことに。仕舞い込んであった、珪藻土(けいそうど)でできた長方形の七輪と備長炭を引っ張り出し、手間暇掛けて塩焼きにしたら、炭火の遠赤外線効果とやらで、ふっくら超美味。口福なひと時であった。
今回通販の鮎を調べていたら、鮎に関するさまざまなうんちく情報もゲットできた。例えば、冬の琵琶湖で取れる3~6センチほどの鮎の稚魚は、体が透明なので「氷魚(ひうお)」と呼ばれ、シラス同様釜揚げにして食すそうだ。正直、その存在を知らなかった。
琵琶湖には2種類の鮎がいる。流入河川を遡上(そじょう)し大きく成長するオオアユと、湖内にとどまりあまり大きくならないコアユの2種。そう、鮎って鮭(さけ)みたいに川を遡上するのだ。実は稚魚期を河口付近の海で過ごすため、普通の鮎はコアユと区別し「海産アユ」とも呼ばれる。川魚で草食というイメージだが、稚魚は海で動物性プランクトンを食べる肉食なのだ。
1年で一生を終えるため、昔は鮎を「年魚(ねんぎょ)」と呼んだ。春になると川を遡上し、コケや藻を食べる草食に変わる。さらに上流へ遡上した後、8月末ごろから秋にかけて、産卵のため中流に下る。「落ち鮎」や「子持ち鮎」とはこの頃の物だ。10月以降12月ごろまでが産卵期で、産卵を終えた鮎はその短い生涯を閉じる。卵は孵化(ふか)すると河口に流され、稚魚は春に遡上するまで海で過ごすというサイクルだ。
鮎は縄張りを作り、入り込んで来た鮎に体当たりして追い出そうとする。その習性を利用したのが、囮(おとり)鮎を使う「友釣り」。養殖鮎で天然鮎を釣るワケだから、いかに天然物が得難いか。相場も知って、貴重な物をいただいていたんだと改めて感謝。夏中に、天然鮎を食べたいなぁ。いっそのこと、鮎釣りに挑戦するか!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。