徳島県の知人から、すだちを頂いた。箱を開けると、爽やかな香りと共に、緑色でピンポン玉ぐらいの真ん丸な果実たちが顔を出した。さぁて、何に使おうかな?
キンキンに冷やしたグラスに氷とジンを入れて果汁を絞れば、ジン・ライムならぬ「ジン・すだち」♪ ベトナムのライスヌードル、「フォー」もいいなぁ。温かい汁麺だけど、現地のあの暑さの中で食べると不思議とサッパリするから夏向きなんだと思う。ライムを絞って食べるのがお決まりだが、すだちに替えてもきっと合うだろう。
そして、何といっても外せないのが「すだち蕎麦(そば)」。メニューに載るのは夏季限定という蕎麦屋が多く、夏になるとコレをいただくのが楽しみ。だが、コロナ禍で食べに行けない。じゃあ、自分で作っちゃえ!
…というワケで、見た目はお店のすだち蕎麦を目指した。薄くスライスしたすだちを、冷やかけ蕎麦の表面を覆うようにびっしり浮かべれば、何て涼やかなんだろう。爽やかな酸味が、キリっと冷たい蕎麦とベストマッチ。あぁ口福!
すだち蕎麦といえば夏というのは、すだちの旬が8~9月だから。この時期、すだちは露地物が旬を迎える。通年販売されているが、実はこの露地物にそのヒミツがあるのだ。一部は収穫後そのまま出荷されるが、それ以外は冷蔵貯蔵され、翌年の春先まで出荷される。貯蔵するために行うのが「予措(よそ)」だ。鮮度を保つために「予(あらかじ)め行う措置」のことで、すだちの場合は納屋などに広げて4~5日乾燥させるそうだ。春から露地物が出回る夏までは、ハウス物の出番となる。
果実を食すのではなく、豊かな香りと酸味を料理や飲み物に添える「香酸かんきつ類」で、やはり緑色の未熟果「かぼす」と混同してしまいそうだが、大きさが違う。すだちがピンポン玉なら、かぼすはテニスボールぐらい。すだちは生産量の約98%が徳島県産だが、かぼすはほぼ9割以上が大分県産だ。最近この両者の中間ぐらいの大きさの、宮崎県特産「平兵衛酢(へべす)」が注目されているから、徳島県のゆるキャラ「すだちくん」にも、もう少し活躍してもらわなくっちゃ。ちなみにすだちの花は、徳島の県花だ。
すだちは昔から酢として使われていたため、「酢」とミカン類の総称である「橘」で「酢橘」となり「すだち」と呼ばれるようになったらしい。それだけしっかりとした酸味があるため、味の強いサンマなどに添えても負けないようだ。
果皮の苦みも少ないので、すりおろして薬味にできる。栄養素的には、果皮の方により多くのカロテンやビタミンC・Eなどが含まれているので、絞って捨ててしまってはもったいない。すだち蕎麦の場合、白いわたの部分から苦みが出る前に取り除くという人もいるが、筆者はその苦みも含め美味に感じる。
風味はモチロンそのサイズ感からか、すだちは焼きまつたけや土瓶蒸しにも添えられる。うぅ~ん、次回はまつたけと一緒に、すだちにお目に掛かりたいものだ。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。