前号で少々触れた「小籠包」。台湾グルメとしてご紹介したが、実は台湾発祥ではない。外国の統治下にあった歴史もあり、中国本土各地だけでなく、ヨーロッパ、日本などさまざまな郷土料理の影響を受け、独自の進化を遂げた台湾料理。台湾小籠包の名店「鼎泰豊(ディンタイフォン)」の創業者も、戦後中国から台湾に渡り、1958年に食用油を扱う油問屋としてスタート。同じく移民の上海料理店店主から勧められ、小籠包の販売を始めたのが1972年のこと。それが大ヒットして今に至るのは周知の通りだが、台湾における小籠包の歴史は、意外にも比較的浅いのだ。
では、その発祥地は? 上海料理店の店主がキーパーソンだったことからも分かる通り、小籠包のふるさとは上海だ。ルーツをたどると、上海豫園(よえん)の超有名店「南翔饅頭店(ナンシャンマントウテン)」に行き着く。
清朝時代の1871年、上海西北部の町南翔の黄明賢という人が、「古猗園」という菓子店を営んでいたが、甘くない肉入りの「南翔大肉饅頭(まんじゅう)」を売り始めたところ大人気となった。しかし、スグに類似品を販売する同業者が現れ、価格競争に巻き込まれるハメに。
そこで彼は、肉饅頭のサイズを小さくし、皮を極薄くして、中に具だけでなく鶏ガラスープを入れることにした。この「古猗園南翔小籠」は、高い技術を要するため、簡単にまねすることはできず、同店は再び人気を盛り返したという。
その後1900年に黄明賢の弟子吴翔升が、上海の名勝豫園を囲む「豫園商城」で「長興楼」を創業、1960年代に「南翔饅頭店」に改名したようだ。以来、現在に至るまで、100年以上もの間、小籠包の名店として君臨し、英国のエリザベス女王やクリントン元米国大統領なども訪れたそうだ。
小籠包に目がない筆者、モチロン豫園観光の際、同店に行ってみたが、あまりの長蛇の列に戦意喪失。だが、土産物店を回ってお買い物をしている間に、現地を案内してくれた知人が、テイクアウトに並んでゲットしてくれたのだ!
店内レストランで提供される「伝統鮮肉小籠」に比べテイクアウトの「鮮肉小籠饅頭」は、少々手荒く扱ってもOKな若干厚めのもっちりした皮が特徴らしい。同店では、鶏と野菜のスープで豚皮をじっくり煮込んで作るゼラチンを、豚挽肉の餡に混ぜているそう。購入者が置いてある黒酢をかけるスタイルだそうで、しょうがの千切りも載っていないが、特製ゼラチンが溶けた熱々のスープの味だけで十分美味♪
大きな小籠包にストローを刺し、汁を吸って味わう、名物かにミソ入り小籠包は食していないが、通常サイズなら東京でもいただける。鼎泰豊同様、南翔饅頭店も海外初出店先に東京を選び、2003年に上陸を果たしているのだ。
ハフハフしながら、スープをこぼさないように食べる小籠包って、おいしい上に楽しい。上海市で初めて、日本の無形文化財にあたる非物質文化遺産に認定されたのもうなずける。あぁ、食べたくなっちゃった!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。