先日「秋田名物きりたんぽ鍋セット」をいただいた。きりたんぽ、比内地鶏、ネギやマイタケなど野菜類と、比内地鶏スープのセットで、必要な物は全て入っている。早速食べてみようっと♪
まずはイラスト入りの調理手順説明書に目を通す。希釈したスープを強火で煮立てたら、最初に「だまこもち」とササガキゴボウ、糸こんにゃくを煮るという指示。はて、だまこもちって…? 食材を見ると、直径3センチくらいの小さな丸いお団子のような物が。コレに違いない。
調べてみると「だまこ」とは、きりたんぽ同様炊いたうるち米を粒が残る程度の半搗(はんつ)きにして丸めた物で、やはり秋田の名物だ。現地でお手玉を「だまこ」といい、似ているからそう呼ばれるという説や、丸めることを「だまける」というからそう呼ぶとする説がある。歴史は古いらしく、きりたんぽのルーツともいわれるが、発祥とされる地域が若干異なる。きりたんぽは鹿角市・大館市など県北、だまこは県中央西部八郎潟周辺の郷土料理だ。
以前この連載に、発祥地鹿角市でいただいたきりたんぽ鍋について書いたことがあるが、だまこもちは入っていなかった。だが、秋田の家庭ではよくだまこ鍋を作るそうで、給食のメニューにもあるというから、県民にとってはソウルフードなんだろう。なるほど、おだしが染みただまこもちは、焼き目のついたきりたんぽとは違って、優しくしっとりした味わい。
今回のきりたんぽ鍋には、もう一つ新たな発見があった。先述の調理手順の他に、もう1枚A4の紙が同梱されており、「せりの〈根〉も食べてみてください!」という文字が。実はこのせり、タダ者ではない。地域団体商標に登録されているブランド野菜、秋田県湯沢市の「三関(みつせき)のせり」という、特別なモノらしい。
せりといえば、春の七草の一つ。日本原産だそうで、競り合うように丈を伸ばすことから「せり」と名付けられたといわれる。中でもこの三関のせりは、江戸時代から栽培されている伝統野菜で、地域に自生するせりの良い物だけを選別し繁殖させた逸品。通常スーパーなどで見かける物と違って白く長い根が付いており、その根まで美味なのが一番の特徴だ。
東鳥海山から注がれる清らかな伏流水で育ち、寒ければ寒いほど根っこが長く伸びるという、その収穫は厳冬期。豪雪地帯ゆえ除雪してからの摘み取り作業は大変な労力を伴う。また、大切な根を傷めないよう、冷たい水田に手を突っ込んで掘り起こさねばならず、手足が凍えて感覚がマヒしてしまうほどだそう。
そんな生産者さんの努力の結晶を、1ミリも無駄にはできない。説明書通り歯ブラシで丁寧に洗った根っこを食べてみた。葉と茎とは違ったシャキシャキの食感で香り高く、ほんのりほろ苦く、甘味もあり、まさに滋味あふれる味わい。
だまこもちも、せりの根っこも、初めて食した。まだまだ知らない美味がたくさんある、口福の国ニッポン。食べ尽くしたいなぁ!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。