前号で書かせていただいたニュージーランド産ラムチョップを販売している通販専門店で、同じくNZ産グラスフェッドビーフも購入することがある。同国では、世界に先駆け成長促進ホルモン剤の使用を制限、完全放牧肥育のため、病気予防の抗生物質を与える必要もないという。他の大陸と離れているという特性と、厳しい検疫システムにより、BSEをはじめ炭疽(たんそ)病など深刻な病気が発生したことは1度もないそうだ。スゴイぞ!
じゃあ、ニッポンの牛君たちと、どう違うの? それは、育て方だ。自然に近い環境で放牧され、牧草のみで飼育された牛をグラスフェッドビーフ(牧草飼育牛)と呼び、主に同国とオーストラリアがこの方式を採用している。それに対し、日本や米国、カナダなどではグレインフェッドビーフ(穀物飼育牛)が主流。特に日本では一部、赤牛などを除き、肉を霜降りにするために高カロリーの穀物飼料を与え、あまり運動させずに牛舎内で飼育する。
グラス(Grass)は草、グレイン(Grain)は穀物を表す。人間だって、よく運動して野菜ばかり食べてる人は痩せっぽちが多い。逆に、運動せずに甘くて糖質タップリのトウモロコシばっかり食べていたら、太るに決まってる。同じことだ。
今、このグラスフェッドビーフが注目されている。放牧により運動量が多いから、肉質は赤身で引き締まっている。高タンパク低カロリー、体に良いと言われるゆえんだ。そのヒレ肉は100グラム当たり133キロカロリーだが、和牛だと223キロカロリー、和牛サーロインなら498キロカロリーにもなってしまうから、カロリーオーバーになりやすい。
また、ひと言でタンパク質と言っても、体内で合成できない必須アミノ酸の含有比を示すアミノ酸スコアがMAXの100という、非常に質の高い数値な上、鉄分は100グラム当たり2・8ミリグラムと豚肉や鶏肉に比べはるかに多い。そしてコレステロール値を下げる不飽和脂肪酸も豊富。栄養素的にも、申し分ない食材なのだ。
なのに、ナゼわが国ではグラスフェッドビーフが主流ではないのか? 理由は、国土が狭いから。牛の放牧には、1頭あたり1ヘクタールもの土地が必要らしい。できたとしても、整備に時間とお金が掛かる。また、グレインフェッドなら短期間で牛を大きく育てられるが、グラスフェッドは飼育期間が長く、出荷量も少ないのでコスパが悪い。
肉以外で、世界的に流行の兆しを見せているのが、グラスフェッドバターだ。イマドキ海外のヘルスコンシャスなセレブの間ではやっているらしい。牧草牛から搾乳されたミルクで作られるバターで、不飽和脂肪酸が多く含まれているという。これを加えたバターコーヒーを飲めば。脳の炎症を防げる上、代謝をアップさせ、中性脂肪減少も期待できるとか。
難しいことはさておき、レアに焼いたグラスフェッドビーフ、ムチャうま!…って、昔はサシの入ったお肉が好きだったんだけど、歳のせいかなぁ…?
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。