【口福のおすそわけ 431】お宿のブーランジェリー 竹内美樹


竹内氏

 館内に本格フランス料理店のある温泉旅館、河口湖畔の「富士レークホテル」。シェフは銀座の伝説の名店「マキシム・ド・パリ」などで総料理長を歴任した、ダニエル・パケ氏だ。開店に際し、高名なフランス人シェフを招聘(しょうへい)したと聞いた時には驚いた。自らを「石橋を叩いても渡らない男」と称する井出泰済社長、実はとんでもない行動力の持ち主だ。今度は、ブーランジェリーをオープンさせてしまった。レストラン「プルミエ」の焼きたてパンが評判となり、ホテル内の一角で販売を始めたが、ついに道路の反対側に、ゆったりしたイートイン・スペースも併設したパン屋を開店。ショーケースにズラリと並んだパンは何種類あるのか? スタッフに尋ねたら、なんと毎日40~50種類も焼いているというからビックリ!

 今年7月1日にオープンした「パン・ダニエル」、既に地元で人気を博しており、筆者が訪れた時もレジ待ちの長い列が。今回購入したパン、一つ目はバタール。同店一番人気のバゲットと同じ生地だが、太く短めに成形するため、パンの外皮クラストの中の、白いクラムの部分が、もっちりと軟らかく、味わい深い。

 次に、ブリオッシュ食パン。バゲットなど、いわゆる「フランスパン」と呼ばれるタイプの材料は、小麦粉、塩、水、イーストのみだが、こちらは卵、バター、牛乳、砂糖なども加えた生地「ヴィエノワズリー」。甘みがあり、食感もふんわり。

 そしてパン・オ・レ。カフェ・オ・レ・同様「レ」は牛乳を意味し、牛乳タップリでとても優しい味。さらに、ライ麦入りのセーグル生地に、フランス産セミドライイチジクが入った、イチジクのパン。ワインのお供に♪

 前夜は「プルミエ」にて。魚料理はホウボウのブランケット。フレンチ定番のこの白いソースは、フォンを一から手作りしているからこその絶妙な味。メインはランド産マグレ鴨(かも)のグリエ。フォアグラ採取後の鴨の胸肉で、フォアグラの香りがほんのり漂う繊細な食材なだけに、火入れが難しい。「フランスの伝統料理を伝承していきたい」というパケシェフの気概が伝わってくるこれらの料理に添えるパンも、やはりフランスの伝統的手法に基づいた物でなければと、自家製にこだわった。

 朝食ビュッフェでも、ブーランジェリーのある宿ならではのさまざまなパンをいただける。筆者のイチオシは、フランス産バターの香り豊かなクロワッサン。

 先日、全旅連の「人に優しい地域の宿づくり賞」で、「東京2020パラリンピック受け入れ」が評価され最高位の厚生労働大臣賞を受賞した同館。業界で一早くユニバーサルデザインを取り入れ、国籍、年代、障害の有無に関係なく、誰もが利用しやすい宿を目指す中、食の好みの多様化にも対応したいとフランス料理に挑んだ井出社長。その主食であるパンも極め、ブーランジェリーまで立ち上げてしまったのだからスゴイ。次は何を仕掛けてくるのか? 目が離せない。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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