江戸時代の料理本「豆腐百珍」についての続き。前号で、百品中14種もの豆腐田楽が掲載されていたと述べたが、当時はそれだけ田楽人気が高かったのだろう。同書の冒頭1品目の「木の芽田楽」の所に、近来登場したという、田楽を焼くための「田楽爐(でんがくろ)」まで図入りで紹介されている。
人気といえば、江戸時代にはさまざまな人気ランキングが存在した。相撲番付に見立てた番付表が続々登場、ミシュランのごとき飲食店格付け「料理茶屋番付」や、温泉ランキング「諸国温泉功能鑑」、良妻・悪妻ランキングの「女大学」など、種類は多岐にわたる。木版印刷技術の発達はもちろんだが、江戸時代の識字率の高さも、料理本や番付ブームの根底にあった。
そんな中、「日々徳用倹約料理角力取組」という番付が現存。これは毎日の倹約おかずランキングで、当時の庶民の人気料理が分かる。東と西ではなく、野菜料理の精進方と魚介類の魚類方に分かれており、精進方の第1位には「八杯どうふ」とある。実は、豆腐百珍にも2種類の八杯豆腐が掲載されている。一つは「真の八杯豆腐」、もう一つは「草の八杯豆腐」。この真と草とは、書道の書体、真書・行書・草書同様、正式な「真」から、徐々に略式の崩した感じになるにつれ、「行」「草」と呼ぶという。
八杯豆腐の八杯とは、水6杯、酒1杯、しょうゆ1杯の意味。筆者も草の八杯豆腐を作ってみた。木綿豆腐を太いうどん状に切ってお湯で温め器に盛り、クズでとろみをつけた八杯汁をかけ、大根おろしをのせるというレシピだ。とろみは片栗粉でも十分だが、シンプルな料理だけに本くず粉を購入。やっぱり味わいの上品さが違う。本来温かい料理なのだが、余った分を冷蔵庫に入れておいたら、くず粉は冷えると固まる性質があるため、イイ感じにトゥルトゥルのタレに冷たいお豆腐という、暑い季節には最高の一品に!
もう一品チャレンジしたのは「軟豆腐」。通品に属し、品名しか記載されていないが、ググればたくさんのレシピが出てくるので、最初は鍋を使う調理法。…だが、なかなか固まらない。にがり不足か?と少しずつ足したところ、何とか固まった。次はレンチンチャレンジ。500CCの豆乳に小さじ1のにがりを混ぜ三等分にして、500Wでそれぞれ1分、1分半、2分レンジアップしてみた。筆者はユルユルの1分、妹は豆の風味が濃く感じられる2分バージョンが好みだった。
とてもじゃないけど、まねしたくないと思うほど手間の掛かるモノも。例えば「線麵豆腐」。水切りした木綿豆腐を裏ごしして卵白とすり鉢ですり混ぜ、まな板の上に美濃紙を敷き、そこに薄く延ばす。熱湯をかけ固めて冷水に取り、冷めたら紙をはいで細く切り、澄まし汁に入れるという料理だ。汁に入れず鍋で炒(い)ったのが「しべ豆腐」。炒ることで中が空洞化するので、藁(わら)しべのようだからだそう。
何とも奥深い豆腐の世界。次号はその歴史やうんちく話の最終章、乞うご期待!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。