料理本「豆腐百珍」が人気を博した江戸時代の食生活に、豆腐は欠かせない物となっていた。では、豆腐はいつどこで誕生したのか? その発祥については諸説あって、日本豆腐協会、全国豆腐連合会ともに、豆腐の起源は定かではないとしている。だが文献上では、紀元前2世紀、前漢時代の淮南王劉安が作ったとされているそうだ。
明確なルーツは謎だが、豆腐が中国で生まれたのは間違いなく、それを遣唐使が日本にもたらしたというのが定説だ。日本の文献では、平安時代末期(1183年)、奈良春日大社の神主の日記にお供物として「唐符」と記載されているのが初出。豆腐は仏教とともに伝来し、寺院の精進料理のタンパク源として全国に普及していった。
ところで、豆腐という文字だが、発酵食品でもないのに、ナゼ「腐」という字が使われているのか? この漢字、冠の「府」には「庫」という意味があるのだとか。つまり「腐」は、庫の中に肉を保存している様を表す文字で、保存中に肉が熟成して柔らかくなることから、柔らかい物を指す漢字として使われるようになったそう。要するに「柔らかい豆」という意味なのだ。
豆腐は、江戸時代中ごろに一般庶民にも浸透したとされるが、ちょうど同じ頃しょうゆが関東で生産されるようになったことも無縁ではなかろう。気の短い江戸っ子は、きっと冷奴にちゃちゃっとしょうゆをかけて食べてたんだろうなぁ。「豆腐百珍」に登場する豆腐料理の味付けに使われている調味料も、しょうゆがダントツの百品中44品、続くみそが18品である。しょうゆの歴史についてはまた別の機会に譲るが、江戸時代に濃口しょうゆが広まったことで、江戸料理の代表とされるそば・ウナギの蒲焼・天ぷら・握りずしが確立したのだ。
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