9月に入ったというのに、暑い! そのせいか、珍しく食欲が出ない。どうしても、ツルツルっと食べられる冷たい麺類に走りがちだ。火のついた鍋の前で暑さをガマンしなくても、近頃、パスタでもそうめんでも、電子レンジでの調理法がネットにあふれている。ただ、量が多いと麺がくっついてしまうので、レンチンは1~2人分が限界だ。
鍋でゆでるとなると、ゆで時間が短いほどありがたい。現在のお気に入りは、超極細の肥後手延(ひごての)べそうめん「ゆきやぎ」。元々、細麺好きな上、ゆで時間何と18秒! 直径1.3ミリ未満をそうめんと呼ぶようだが、コレは約0.4~0.6ミリの激細だ。
機械で作る方が細くできそうな気がするが、手延べでないとこの細さにはならないのだとか。ゆでようと手に取る時、折れないように気を使うが、箱詰めだって手間が掛かるだろう。そもそも、手延べそうめん作り自体が大変だ。小麦粉と塩水をこねて生地を作ってから、熟成と延ばしを繰り返し、よく写真で見かける天井から麺が吊り下がった「門干(かどぼ)し」という状態になるまでいくつもの工程を重ね、さらに延ばしながら乾燥させるのだ。
そんな手延べそうめんの産地は全国各地にあるが、残念ながら水質の悪化や後継者不足などで衰退してしまった地域もあるらしい。現在日本三大そうめんと呼ばれるのは、そうめん発祥の地と言われる奈良県桜井市の「三輪そうめん」、兵庫県手延素麺協同組合の商標「揖保乃糸(いぼのいと)」でおなじみの「播州(ばんしゅう)そうめん」、そして麺を延ばす工程の一つ「油返(あぶらがえ)し」に、特産のごま油を使用する香川県の「小豆島(しょうどしま)そうめん」だ。
手延べそうめんが作られるのは、秋から春にかけて。その年に出荷されるのが「新物(しんもの)」で、翌年の梅雨を越した物が「古物(ひねもの)」、さらに次の梅雨を越すと「大古物(おおひねもの)」と呼ばれる。梅雨時期の高温多湿で小麦粉の中に含まれる酵素が働き、そうめんの舌触りがアップ、コシも強くなるそう。でも、あくまで専用保管庫での熟成なので、自宅ではNGだ。
その歴史をたどると、そうめんの起源は「索餅(さくべい)」という、小麦粉と米粉を練って縄のような形にした物だそうで、遣唐使がもたらしたといわれる。天武天皇の孫、長屋王の邸宅跡から出土した木簡に記されていたのが、最古の記録だという。
五節句の一つ七夕に索餅を食べると疫病にかからないという中国の故事に倣い、平安時代宮中の儀式では欠かせない供物だった。7月7日はそうめんの日でもある。織姫にあやかり裁縫の上達を願い、糸のようなそうめんを食した。だから夏の風物詩と思うが、実は夏の季語ではない。俳句歳時記には「冷索麺(ひやそうめん)」や「流し索麺」はあるが、「索麺」だけでは季語としないとあった。昔は四季を問わず慶事や弔事に食べていたからだといわれる。
今や明太クリームやトリュフ味など、進化形そうめんを提供する専門店も出現、人気を博しているそうだ。さて、次はどんなそうめんを食べようかな?
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。