【口福のおすそわけ 476】日向の平兵衛酢 竹内美樹


 以前このコラムで紹介させていただいた、精神障害者の自立と社会復帰を目指す「NPO法人ほとくり会」。昨日、宮崎県の同法人から、今露地物が旬の、同県日向特産「平兵衛酢」が届いた。

 平兵衛酢って、聞き慣れない名前だなぁと思う方も多いだろう。それもそのハズ、「幻のかんきつ類」と呼ばれるほど、流通量が少ないのだ。筆者も食材調達でたびたび同県を訪れるようになるまで、その存在を知らなかった。スダチやカボス、ユズなど他の香酸かんきつ類に比べてかなり皮が薄く、種が少ないのが特徴だ。大きさは、スダチがピンポン玉くらい、カボスはテニスボールくらとすると、ちょうどその中間。

 スダチは8~9月の旬の露地物を冷蔵貯蔵し、ハウス物が出る3月ごろまで長期保存しているから、通年出荷が可能なんだそう。でも、平兵衛酢は皮が薄くて冷蔵保存ができないため、6月から、加温のハウス栽培、無加温のハウス栽培、露地栽培と、リレー出荷を行っているそうだ。しかも、早穫りして品質を損なわないよう、ハウス・露地、それぞれの作型で、開花から収穫までの期間が定められているという。

 また、種がほとんどないという特徴を守るため、他のかんきつ類と交配しないよう隔離するか、離れた土地で栽培しなければならないそうだ。確かに、切ってみると驚くほど種がない。絞って種だらけになってしまうことがないから、ノーストレスだ。さらに、皮が薄いため防腐剤が散布できないから、皮ごと使えるノーワックスかんきつ類としても人気が出ているようだ。

 ツンと来ないまろやかな酸味と爽やかな香り、果汁率の高さが魅力の平兵衛酢。実は栄養素的にも優等生なのだとか。ビタミンCが豊富なのは言うまでもないが、必須アミノ酸9種類のうち、8種類も含まれているという。その上他の香酸かんきつ類に比べてフラボノイド含有量が多く、中でも発ガン抑制効果・ガン細胞増殖抑制効果があると注目されている「ナツダイダイン」や、抗アレルギー作用があり、花粉症やアトピー性皮膚炎の改善に効果が期待できるといわれる「ナリルチン」が多く含まれているという。

 変わった名前は、江戸時代末期に、日向富高西川内の長曾我部平兵衛という人が発見したことに由来する。山中に自生していた香り高い果実に出会い、家の庭で育て、接ぎ木してはその苗を近所に分けていたそうだ。それでいつしか、平兵衛酢と呼ばれるようになったとか。地元では、「料理の隠し味に使うと嫁の株が上がる」という言い伝えがあり、娘を嫁がせる時、平兵衛酢の苗木を持たせる慣習があったそうだ。

 皮も食べられるから、薄切りにして冷たい平兵衛酢蕎麦(そば)にしたら、最高♪ 10月下旬になると大きく成長し、黄色くなって、11~1月ごろまで「完熟へべす」として出荷される。おいしくて健康にもイイなんて、平兵衛さんに感謝! そして、宮崎県産の美味な食べ物を教えて下さった、ほとくり会さんにも感謝!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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