前号の続き。高知県にはさまざまな酢みかんがあるが、王者はやっぱりユズだ。
お吸い物に果皮を浮かべれば、おわんのふたを取った途端、この上ない香りが立ち上る。果汁をほんの数滴搾っただけで、料理が劇的においしくなる。ポン酢しょうゆの原料としてもおなじみだ。
そんなユズの生産量国内第1位の同県、シェアは全国5割以上を誇る。原産地中国から日本に渡来し、奈良時代には国内で栽培されていたようだが、ナゼ同県でそんなに栽培が盛んになったのか? 実は、県内でも産地によって、背景となる事情が違うらしい。
まずは、今や知名度全国区の「馬路村のゆず」。同村ではかつて山間部での林業が盛んだったが、次第に衰退し、人口も流出。そこで林業に代わる新たな産業として、1963年にユズの栽培を開始。だが、県内では既にユズの生産量が多く、供給過剰だったため、同村では県外への販売に活路を見いだし、積極的にアピールを続けたところ、ブランド化に成功、村おこしも実現できたという。
次の主人公は、幕末の志士で、あの坂本龍馬の盟友、中岡慎太郎だ。出身地の北川村が、安政の大地震で飢饉(ききん)に陥り、塩が手に入らず、みそもしょうゆも作れなくなったらしい。そこで彼は、同村に自生していたユズの栽培を推奨。調味料として使える上、防腐効果もあり、日陰でも育つので家の裏でも植えられると、栽培が盛んになったそうだ。
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