レストランやカフェ、パティスリーを全国展開するブランド「KIHACHI」の創業者、ムッシュこと熊谷喜八シェフ。筆者が高知県観光特使を務めさせていただいているのも、ムッシュのご紹介で、高知県地産外商公社の方々と、生産者の皆さまを訪れたのがキッカケ。岩手県にも、農林水産部の方々のご案内でご一緒させていただいた。筆者が役員を務めるお弁当製造販売会社で、ムッシュとのコラボ弁当をリリースしたことも。
ムッシュは銀座東急ホテルを皮切りに、セネガル、モロッコ日本大使館料理長に就任後、渡仏。パリ「マキシム」等で修業され、有名ホテルのセクションシェフまで務められた。帰国後、有名店で総料理長を務められた後、1987年、自らの名を冠したレストラン「KIHACHI」を南青山にオープン。ジャンルにとらわれない、自由な発想の無国籍料理が人気を博した。
国内外でさまざまな賞を受賞され、2015年黄綬褒章受章祝賀会には、筆者も末席を汚させていただいた。現在も全日本司厨士協会副会長など数多くの役職を務められ、全国の産地を飛び回っておられる。ほかにも、東京農業大学の客員教授として、各地の食材を使った新たなレシピを開発する学生さんたちに、調理実習も含め教鞭(きょうべん)をとられるなど、八面六臂(ろっぴ)にご活躍中の、料理界のレジェンドだ。
そんなムッシュと、先日キハチ青山本店で、久々にランチをご一緒させていただいた。前菜は、厚切りのカツオのタタキを、オクラやミョウガ、トマトや、トロリとなるまで火を通してから冷やしたナスなどの野菜たちが彩り、梅肉ソースが添えられた一品。華やかな盛り付けや、洋食でも和食でもない、ジャンルを飛び越えたボーダーレスな味わいは、喜八イズムを継承している。
2品目は、ブイヤベース。ホタテとイカの火入れ具合がちょうど良く押し麦のプチプチ感が楽しい一皿。先述のナス同様、いろいろな食感が楽しめる工夫が。サフランの風味も、添えられたニンニクマヨネーズのアイオリソースも、大好きな味♪
お次は真ダイ。パリッと焼いた皮の上に、ふわとろの白子が! 貝柱とアスパラのソースが、またしても無国籍な味わい。添えられたフキノトウの天ぷらの苦みが、春らしさを演出していた。
メインは、豚ロース肉マスタードソース。ニンジンやカリフラワー、ミニトマトなどカラフルな野菜が目に鮮やか。野菜の使い方が素晴らしい。セネガルやモロッコの大使館で日本の野菜が手に入らず、敷地内で自ら畑を作ったというムッシュから薫陶を受けた、石川泰史シェフならでは。
デザートは「ナポレオンパイ」。旬の国産いちご、サクサクのパイ生地に、生クリームとカスタードクリームを合わせたディプロマットクリームと生クリームのダブル使いが絶妙! パリ「マキシム」の系譜を受け継ぐ味わいである。料理界のレジェンドは全国生産者の応援団長でもあった。「食を通して日本を元気に」というムッシュから、ますます目が離せない。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。