前号まで、江戸の屋台めしについて書かせていただいたが、その代表選手、江戸前握りずしのネタの一つがシャコ。石巻湾・東京湾・伊勢湾・三河湾・瀬戸内海・有明海などが産地として知られる。だが、近年江戸前の漁獲量が激減、石狩湾産が増えているようだ。石狩湾は底引網でなく刺し網漁なので、サイズが大ぶりだそう。小樽港では4~6月に取れる春シャコと、10~12月に取れる秋シャコがあり、卵の多い春シャコが人気。メスのオレンジ色の卵巣は「カツブシ」と呼ばれ、ホクホクの食感と濃厚なうまみが楽しめる。
シャコは筆者にとって、いろいろ思い出深い食材。父方の祖母は、超シャコ好きだったそうだ。魚屋の御用聞きに注文したシャコをお手伝いさんに湯がいてもらい、それをハサミでむきながら食べる着物姿の祖母の様子は、米国暮らしが長かった母の目には異様に映ったようだ。やはりワシワシと手づかみで食べてしまう筆者には、祖母の血が流れているのだろう。
産地の一つ、香川県観音寺市の知人森川さん宅でも、何度かごちそうになった。箱の中でガサゴソ音を立てている生きシャコを水道で洗い、沸騰したお湯に投入! 熱々をむきながら食べると、驚くほど甘い。筆者が調理させていただいたこともあった。近所のスーパーで粉サンショウを購入、ニンニクのみじん切りと殻ごと炒め、サンショウ塩で味を付けた。殻ごとしゃぶれば、止まらないおいしさ♪ 娘さんが東京にいらした折、ゆでたむき身の冷凍をお土産にいただいたことも。パックの中で整列したシャコを見て、どれだけ手間暇掛かったことか…と頭が下がる。
海外でも食した。北ベトナムの世界遺産ハロン湾クルーズでは、絶景を見ながら船内で食事中、いけす付きの船が海産物を売りにきた。カニなどのほか、もちろんシャコもチョイス。ネギやニンニクと炒めた塩味のシャコは、超ベリウマ♪
マカオの海鮮料理屋で水槽に入っていたシャコは、超巨大! 調理前にいったん運ばれてきたので、思わず写真を撮った。比較対象がないと分からないから、男性の腕を並べてもらったら、肘から手首を通り越して、手の指の付け根くらいまで届きそうなほど大きかった。この時は、ニンニクの効いたスパイスチップスがかけられていた。ウマし?
いずれも新鮮だから美味なのだ。シャコは脱皮のために自己消化酵素を持っており、死ぬと自分の身を溶かしてしまうという。鎌状の捕脚を持っているのが特徴。コレで自分と同じくらいのサイズの魚まで捉え巣穴に引きずり込むのだ。また、22口径の銃と同じスピードでパンチを繰り出し、貝やカニの甲羅を割って中身を食べるとか。
すし屋の符丁で、シャコは車庫にかけてガレージと言うそう。何ともシャレが効いている。だが、江戸前のシャコが消えてしまってはシャレにならない。湾岸工事や生活排水による赤潮など、シャコの敵は多い。シャコがたくさん取れる東京湾に戻せたらと願う。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。