【口福のおすそわけ 528】ところてんと寒天 竹内美樹


 一体、秋はいつ来るのだろうか? 10月下旬に入ってからも、全国的に、気温25度以上の夏日があるという予報だ。まだまだ暑いのだ。酷暑だの猛暑だので疲れたカラダが、今になって悲鳴を上げ、つるんと冷たい食べ物を欲する。そういえば、買っておいたところてんが、まだ冷蔵庫に入っているハズ。…というワケで、おいしくいただいた。漢字で「心太」と書くところてん、モチロン夏の季語だ。その食べ方は、地域によって異なる。主に関東が酢じょうゆで関西が黒蜜とされるが、三杯酢やかつおダシの地域も。筆者は酢じょうゆ派で、青のりと和からしが必須。

 食べ物としては、かなり古くからあるようだ。日本には遣唐使によって中国から伝わり、精進料理としてその製法が伝えられたとされる。ナゼ「心太」と書くかについては諸説あるが、原料の煮汁が固まるという意味を持つ「凝(こ)る」を語源とする「心」に、太い海藻という意味の「太」をつけ、「こころふと」と呼ばれるようになり、それが時代と共に転訛(てんかん)して「ところてん」になったとする説が有力。原料の天草(てんぐさ)についてだが、実は天草という名の海藻ではなく、テングサ目テングサ科の紅藻類の総称だという。ところてんに使用されるのは、マクサやオオブサという海藻なのだ。

 一大産地は静岡県伊豆半島沿岸。海女さんが素潜りで採取するという。採取後真水で洗って天日干しにするという作業を繰り返すうち、真っ赤だった海藻が白くなるそうだ。その煮汁をろ過し、冷やし固めたものがところてん。それを凍らせて乾燥させると、寒天ができるのだ。寒天は偶然の産物で、1658年ごろ京都伏見の宿の主美濃屋太郎左衛門が、たまたま戸外にところてんを置き忘れて凍結し、日中にとけて水分が抜け、乾物のようになった物を発見したのが始まりだという。試食した隠元禅師により「寒ざらしところてん」と名付けられ、後に省略され寒天と呼ばれるようになったそうだ。

 日本一の寒天の産地は、長野県。江戸時代、諏訪から関西に行商に出かけた小林粂左衛門が、丹波で寒天づくりを見て、故郷の農閑期の副業になると思い、製法を学んで持ち帰ったといわれる。寒天を高野豆腐のように凍らせて乾燥させるには、寒さが厳しく雪が少ないという気象条件が必要で、諏訪地域はそれにピッタリだったのだ。天然角寒天を生産しているのは、今も諏訪地域のみ。

 それにしても、ところてんは寒天から作ると思っていたが、逆にところてんから寒天が作られたとは意外! ちなみに、ゼラチンとはどう違うのか? 寒天が植物性なのに対し、ゼラチンは牛や豚の皮や骨などに含まれる、コラーゲンという動物性タンパク質が原料。固まる温度は寒天が30~40度で、ゼラチンは20度以下。溶ける温度は寒天が85度以上なのに対し、ゼラチンは20~30度なので、冷蔵が必要となる。
 ローカロリーで食物繊維豊富なところてんと寒天。上手に取り入れたい。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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