沖縄本島北部、世界遺産やんばるの玄関口に位置するカヌチャリゾートは、東京ドーム約60個分、約80万坪の広大な敷地に9棟のホテル棟とヴィラ群、ゴルフコースとクラブハウス、各種レストランなどが点在する。
敷地内の移動はカートやトロリーバス、ときにはキックボードも利用できる。ビーチはもちろん、遊具がそろうキッズプールや、ガーデンプールはプールサイドバーがあって大人が楽しめる。客室は全てが50平米以上でジャグジー付きと、徹底した滞在型の本格リゾートだ。
創業者の故・白石武治氏と妻・耶枝氏の二人三脚で白石グループは大きく発展し、県の戦後経済を支えてきた。観光分野の社業を引き継いだ白石武博氏(現社長)は、OCVB沖縄観光コンベンションビューローの下地芳郎会長、OTS沖縄ツーリストの東良和会長兼社長らとともに、県のリーディング産業である観光を力強くけん引してきた一人である。
世界水準のリゾート地を目指す沖縄の、パイオニア的存在のカヌチャリゾートは、開業からすでに四半世紀がたつが、その間で予約経路は伝統的旅行会社からOTAへ、そして個人旅行が多勢を占めるようになった。コロナの影響で、沖縄は深刻なレンタカー不足に悩まされている。武博氏は沖縄県レンタカー協会の会長に返り咲き、状況の改善にも奔走する。
学生とともに久しぶり、カヌチャリゾートを訪ね、総務部の新垣譲治氏に話を聞いたところ、コロナ禍のピンチをチャンスに攻めの経営をしているのが分かった。
セールス&マーケティングにAIを導入して効率化を図り、敷地内に従業員向けの保育園を開園させた。20名収容のコワーキングスペースを設けて、ヘルスチェックが可能な診療所も置いた。さらに、リゾートアミューズメントラウンジ「LUPiNUS(ルピナス)」を、2022年6月にオープン、やんばるの森をイメージした「森中秘密基地」にはYogibo(ヨギボー)が心地よさを提供する。バー併設のシミュレーションゴルフやダーツ場など、天候に左右されない場づくりも進めた。
これまでのウエディング・チャペルとは別にリゾートウエディングのための新たな教会を建て、新郎新婦が乗る馬車はハウステンボス育ちの馬が引く。冬の風物詩・イルミネーションは1999年からと時代を先取りした。環境問題では、ヤシの木の植林事業で県認証のCO2排出権を取得するなど、SDGsにも積極的だ。
カヌチャリゾートは基地問題で揺れる辺野古の目と鼻の先。キャンプ・シュワブ周辺ではプラカードを手にした人の姿もみられた。去る9月の沖縄県知事選では玉城デニー氏の再選が決まったばかりで、県政の行方に目が離せない。NHKが報じた知事選告示後の演説をAIが分析した結果、候補者が発したワードに「観光」がほとんど含まれていなかったことが気がかりだ。観光に頼らない地域経済を模索する前に、今ある産業としての観光を、どう回復させていくかの具体的道筋を示すことが重要ではなかろうか。
武博氏は言う。ここで働く人たちの合言葉は「ATM」と。明るく、楽しく、前向きに、を意味するそうだ。その心こそが、不屈の沖縄観光の今を表している。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)