【地域創生と観光ビジネス27】豪仏政観が日本の海旅市場を占う 「日本旅行業女性の会」勉強会 淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子


 コロナ明けの海外旅行市場のマーケティングをテーマにした勉強会が去る4月6日、都内で開催された。マイルポスト代表の榊原史博氏をファシリテーターに、オーストラリア政府観光局のデレック・ベインズ日本局長とフランス観光開発機構のフレデリック・マゼンク日本局長が登壇するという豪華な顔ぶれ。主催のJWTC日本旅行業女性の会(坂本友理会長)は1980年に設立した任意団体で、筆者も15年前から活動をともにしてきた。

 コロナ禍に霧消した海外旅行市場は、航空座席数の供給不足や世界的な物価高、さらには円安で、商品価格は倍化した。ビジネス渡航や旅慣れたリピーターが戻り始めたが、多くがOTA利用のFITで、旅の個人化が顕著になった。

 コロナ前の水準に市場が戻るのは25年との見方もあるが、デレック氏は「早ければ24年上期」と予測した。これまで海外旅行の代替で国内へと人が流れたが、海旅市場が回復すれば、国内は萎みかねない。インバウンド頼みがより一層、鮮明になる可能性が高い。

 ワーキングホリデーや教育旅行が回復し始めたオーストラリアは、客層が若くて男女比は半々とバランスがよい。旅先の決定権者ともいえる女性が約8割を占めるフランスは、旅費が高騰したため、ハネムーンなど価格帯にこだわらない顧客の獲得を目指すという。

 他国に比べると日本の戻りが遅いという意見は、両国ともに一致した。慎重な国民性に加えて、業界事情も要因する。榊原氏は、「第一種旅行業はコロナ前から企業数が2割減、営業所数はピーク時(16年)と比べ4割強減、当然ながら従業員数も3割減の状況で、コロナ明けを迎えた」と指摘した。

 伝統的旅行会社は、ここ数年で非旅行業の取り扱いを伸ばして存続を図り、黒字転換する一方で、本来業務の旅行業離れが進んだ。そもそもコロナ前から、海外デスティネーションのプロモーション費は段階的に削減されたが、今はゼロに等しい。店舗撤退が一気に進み、紙のパンフレットはデジタル化され、販促手法は一変した。インターネットが主戦場になると、価格競争でOTAに顧客が流れるというジレンマにも陥っている。だがフレデリック氏は、「顧客は店舗への信頼を失っていない」と語る。店頭に足を運ぶ上客を、いかに獲得するかも問われる。

 また、フランス政府が注力するテーマ「持続可能な旅」で利用される環境配慮型のホテルは、バスタブがなくシャワーブースのみで、ミネラルウォーターはペットボトルを廃止してフィルター付きの水道蛇口を利用させる。なのに客室料は高いから、日本人の反応が芳しくない。SDGsへの意識の違い、認識の遅れを指摘した。

 勉強会では、この日のために収録したオーストラリア政府観光局総局長フィリッパ・ハリソン女史のビデオメッセージが流れた。あらためて日本の旅行業の女性活用の遅れも感じた。雇均法施行前から女性が活躍できる業界として知られたが、役職者の男性比率は依然、高い。

 連合に初の女性会長が誕生したのはコロナ禍の21年のこと。連合結成は1989年だから、JWTCより9歳若い。これでは、日本の旅行業が「時代遅れ」と言われても仕方ない。

(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)

 
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