【地域創生と観光ビジネス39】観光庁インバウンド地方誘客事業 日本東京遊学と甘楽町ふるさと体験 淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子


 23年度「観光庁インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」は、コロナ明けから空前の採択数をはじき、今まさに事業の最盛期を迎えている。自身が理事長を務める「NPO法人交流・暮らしネット」でも採択され、慣れないながらも必死に事業をこなしている。

 事業名は「日語研修秋(暑)期一個月 日本東京遊學体験」。主に台湾インバウンドがターゲットである。東京・池袋の日本語学校と組み、午前は日本語を学んで、午後は交通系電子マネーを使い都内名所を見物する。学校が休みの週末に、小旅行で地方を訪ねる仕立てである。

 旅の発展段階でリピーターにみられる「暮らすように旅をしたい」という思い。私たち日本人も、かつては海外の語学学校に大挙した。物見遊山を卒業して“ロコ気分”を味わいたいのは、台湾の人たちも一緒だろう。集客しやすいよう、東京遊学をうたった。

 では、そうした人たちをどうやって地方分散させるのか。知恵を絞ったところ、アクセスがよくて観光コンテンツも豊富だが、意外や訪日台湾にはいまだ知られていない群馬・甘楽町を候補地にした。早速、茂原荘一町長に事業の協力を申し入れたところ快諾くださり、今回の2泊3日のモニターツアー「甘楽町ふるさと体験」が実現した。

 秋晴れの週末、大型観光バスを貸し切って池袋を出発し、一路、甘楽町を目指した。来日して間もない学生たちは、見知らぬ人との旅に緊張が隠せない。ツアーにはプレスのほか、北は仙台、南は熊本や沖縄からも有識者らが駆け付けてくれた。自家用車組も交じっての大所帯となった。

 戦国武将・織田信長の二男・信雄から8代にわたって統治された甘楽は、歴史ある街並みが保存され、国指定の名勝「楽山園」が往時の栄華を今に伝える。雨ざらしだった墓石群は、「織田公公園」として奇麗に整備がなされていた。「めんたいパーク」と「こんにゃくパーク」の二大パークを訪ね、隣接する富岡市の世界遺産「富岡製糸場」も行程に加えた。

 最終日、甘楽町役場にバスが到着したとき、車内で歓声が沸いた。庁舎には台湾の青天白日満地紅旗が日の丸とともに青空にはためき、吊看板には「歓迎光臨」の文字が。温かい出迎えだった。

 意見交換会で感想を求められた学生たちは、たどたどしい日本語で口々に感謝を述べた。初日の夜に「甘楽ふるさと館」で食べた、生まれて初めてのすき焼きや、2日目の晩のバーベキューが特に印象的だったと語る。一方で有識者の皆さんに聞くと、甘楽の地酒「聖徳銘醸」の日本酒飲み比べが良かったらしい。何はともあれ「食」は旅の印象を支配する。改善点を見いだして、次年度の自走の参考にするつもりだ。

 今回のツアーで筆者は30年ぶりに添乗業務をこなした。気の抜けない3日間だったが、終わってみれば成功の余韻に浸っている。「先生と言われるほどの馬鹿でなし」。専門家然よりも、一プレイヤーであることの喜びを感じた。

 末筆となるが、ご協力をいただいた甘楽町の皆さま、甘楽町ふるさと大使の茂原史則さんやNPO関係の仲間たち、そして江明清さんと台湾関係者の皆さまには、心から御礼を申し上げます。

 (淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子) 

 
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