人気ゲーム・艦隊これくしょん、通称「艦これ」のイベントが、コロナによる行動制限解除後の4月下旬、広島・呉市で開催された。
艦これとは、旧海軍の艦船が女性キャラクター・艦娘に擬人化され、敵と戦う育成シミュレーションゲームのこと。プレイヤーを提督さんと呼ぶ。その提督さんらが呉に集結し、会期中のイベント来場者数は延べ約1万人、市内の宿泊施設は全て満室の盛況ぶりだった。
今回のイベントは、呉市の市制120周年記念事業として実施された。国際観光が進む広島県だが、広島市街や安芸の宮島に比べて呉での滞在時間が短いことが課題になっていた。入域者の約6割が日帰り客で、観光消費額がなかなか伸びない。そのためコロナ禍前は、インバウンド誘致にも注力した。
インバウンドが霧消した今だからこそ、艦これイベントの経済効果は計り知れない。3年ぶりの聖地開催だっただけに、その熱量は相当なものになった。
今回のイベントでは、スタンプラリーで市内の回遊を促し、夜には櫓(やぐら)を組んで野外イベントを実施した。夜のイベント開催は宿泊を伴うため、効果が高い。JR西日本は臨時列車を増発するなど、アクセス面も考慮した。
もともと歴史ある呉の街には、戦艦大和の建造で知られる旧呉海軍工廠のれんが倉庫や大和ミュージアムなど、かつての軍港の名残が色濃い。港町の風情が漂うその一角に、威風堂々と佇むクレイトンベイホテルがある。
新型コロナウイルスの集団接種会場に、全国で一早く名乗りを上げて会場提供したホテルで知られる。大都市のホテルでも追随の動きがみられたのは記憶に新しい。2018年の西日本豪雨ではホテル施設の一部が被害に遭ったが、地域の人たちへの炊き出しにご当地メニューの「呉海自カレー」を振る舞った。このとき筆者も、淑徳大学の学生63人を連れて復興ボランティアに協力した。昼の温かいカレーがありがたかった。
このクレイトンベイホテルに艦これファンが訪れるようになったのは、ここ数年のこと。11階のレストラン「ヴェール・マラン」が戦艦大和の艦橋とほぼ同じ高さということで、提督さんが訪ねるようになった。ホテル側も知らなかったらしく、「正直、驚いた」と総支配人の佐々木正義氏は当時を振り返る。眺望がよい同レストランは朝食会場として宿泊者が利用でき、人気が高い。
筆者は昨夏、ホテル2階のレストラン・日本料理「呉濤」で限定メニューの「穴子膳」をいただいた。提督さんは一人客が多い。敷居が高いホテルレストランを気兼ねなく利用できるよう、お品書きも工夫した。
このように海軍再現料理や関連商品を新たに開発して、スタッフ自らがツイッターで情報発信を繰り返した。宴会利用がコロナで減った分、テイクアウトを含む料飲や物販を強化した。
クレイトンベイホテルの底力は、それだけではない。併設する会員制のスパ「クレイトンベイホテル クラブ・スパ ベイ」は県内屈指、ホットソルトの塩タイルは本場・韓国から輸入したもので、ミストサウナや酸素カプセルなど内容が充実する。そして一筆、気持ちのよいスタッフが常にいることを申し添えたい。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)