【地方再生・創生論 257】「バイ・山の洲」広域経済圏 松浪健四郎


松浪氏

 衆議院運輸委員会(当時)で、私は質問をした。「静岡空港の真下を東海道新幹線が走っています。JRは空港駅を造れば、観光上、災害時のために役立つ、この考えはどうか」。

 「空港下の新幹線は高速度で走っているに加え、トンネルだけに工法も難しい」との政府答弁。が、今、川勝平太静岡県知事が私の考えを渇望されている。

 当時、わが国には「観光立国」の発想がなかった。この空港は、二階俊博代議士と石川前知事の発案で始まり、富士山観光に主眼を置いていた。で、私は小笠原の島に空港を造って、島民の期待に応えるべきだとも国会で主張、二階グループの役割を果たしてもいた。わが国の象徴でもある世界遺産たる富士山は、観光地としては最大の目玉、世界に売り出すことのできる名山である。

 私は知らなかったが、2月23日は天皇誕生日であり、「富士山の日」でもあるそうだ。「ふ(2)じ(2)さん(3)」の語呂から定められたらしいが、名峰を挟んで隣接する山梨と静岡の両県は、条例で決めているのだ。

 長崎幸太郎知事は、二階門下生で観光問題についても熱心である。そこで、豊かな自然や美しい景観、歴史や文化を守り抜くために山梨と静岡の両県が、観光のみならず経済面でも協力することとなった。地元産品を互いに購入し合う「バイ・ふじの国」運動をスタートさせた。2021年8月、静岡・山梨間を走る中部横断自動車道が全線開通したので、両県が身近になったのだ。

 そこへ長野県と新潟県を加えた「バイ・山の洲(くに)」の4県で広域経済圏の構想を打ち出した。4県の人口合計は900万人、国内総生産(GDP)は38兆円に達し、ノルウェーやオーストリアの国々に匹敵するという。4県が相互に連携すれば、何もかも効率が良くなる。

 長野、山梨には海がない。静岡は太平洋、新潟は日本海、海産物の種類も異なる。山梨と長野は果実の宝庫、さまざまな新鮮な海産物と果実がある。連携を強化することにより立派な経済圏が形成される。高速道路の発展は、東京一極集中の時代からの転換を可能にする。かつての「塩の道」が、形を変えて再出発するかの印象を受ける。

 「バイ・山の洲」は、2021年11月に新潟県妙高市に4県の知事が集まって会議して発足、共同宣言が採択された。4県の経済圏は観光資源も豊富であり、いろいろな構想が持ち上がる期待感もふくらませる。

 バイには、「Buy」(買う)と「By」(寄り添う)の意味があって、4県の産品を中央(東京)に送らずとも、4県で売り買いできる組織を作れば、輸送費や燃料費の削減と時間の短縮につながる。高速道路の開通が地域を強くする。

 花角新潟県知事は、二階俊博運輸大臣の際の秘書官であり、海上保安庁次長から転身された。観光を重視する知事で、県民の支持も強固である。山形、石川、富山等の各県を巻き込む構想を花角知事や長崎知事に期待する。

 全国の産品が、東京や大阪をはじめ大都市に送られ、そこから地方に再発送されるシステムは、ぼつぼつ変化させる必要がある。そのためには、各地方で経済圏を構築することから始めねばならない。

 「バイ・山の洲」は、富士山と日本アルプスでつながる4県で枠組を作った。阿部守一長野県知事の提唱で開始された「中央日本4県サミット」が下敷きとなり結実した。この例は、各地の知事たちに影響を与えるだろうし、地域で考えねばならない問題である。

 観光、経済のみならず人との交流も大切だ。各県の連携でなくとも、各市間の連携も盛んにすべきである。すでに病院や農協等の連携が見られるが、もっとあらゆる面で積極的に連携してほしい。

 小さな自治体よりもスケールメリットを常に考える自治体であれば、中央政府も協力してくれる。高速道路の活用と連携戦略を考えねばならない時代であろう(参考、毎日新聞2022年2月23日号)。

 
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