【地方再生・創生論 262】「田んぼダム」で水害対策を 松浪健四郎


松浪氏

 田植えを終えて1カ月もたてば、草引きが待っている。稲に混ざってヒエが生えていて、それを引き抜く。稲とヒエの区別は、草引きを体験した者でしかできない。この単純作業が嫌いで、田んぼがない家がうらやましかった。稲を育てるには、水の管理が大切で、地元の水利組合の決まり通りに水を入れる。

 ところが、大雨や豪雨ならともかく、台風のごとく風が強くて育った稲が倒れてしまい、せっかくの実った穂が水に漬かってしまうと涙を流すことになる。そんなとき、農家のお年寄りが田のチェックに出掛けて水路に落ちて命を落とすことが悲しいことによくあった。どの田んぼも不必要な水を外へ流すものだから、水路があふれてしまうのだ。あぜ道だってゆるんでいて危険。慣れ親しむ己の田んぼとはいえ、水は恐ろしい。で、あぜに枝豆を植えて、あぜを強くする習慣があった。

 全ての田んぼの水を同時に水路へ流せば、下流の田んぼは困る。流す水量を調節すれば、田んぼの被害も減るだろうし、水害を防ぐ一助となろうか。そこで、「田んぼダム」の発想が、簡便な水害対策のために広がりつつあるという。既に兵庫県や新潟県では取り組む地域があり、農業用水の無駄づかいを減らす一案ともなっている。これまでの田んぼの排水は、水位調節の板を越えると、その分だけが外へ流れる。これが一般的であった。

 それでは、水位調節の板を高くして、水位がたとえ少しでも高くなれば排水量が減る。全ての田んぼが、この「田んぼダム」に協力すれば、水路の量が減少して水害防止となるに違いない。そのためには、効果を得るために、治水対策として自治体が音頭をとって、各農家や田んぼの持ち主の協力を得る必要がある。大きな工事を必要としないため、容易に協力を得られそうだが、水位を高く保つためにはバラつきがあってはならないので、農家への支援も忘れてはならない。互いに信頼できる関係でないと、ダムづくりにはならない。

 雨水を田んぼで受け止め、ゆっくり流出させることを全ての田んぼでできれば、それは見事な田んぼダムといえる。各自治体は、治水の一歩としてこの田んぼダムづくりに取り組むべきである。もし、10センチほど高く田んぼの水をためることができれば、本物のダム並みの役割を果たすこととなろうか。水害対策は、全ての人たちが問題意識を共有し、協力してもらわねば成功しない。

 その意味において、自治体は日ごろから農家の皆さんとコミュニケーションを盛んにしておくべきである。もし、休耕地があるならば、有効活用できるように、農耕してもらえるようにあっせんをして農業を盛んにしてほしい。農地への干渉は、個人問題ゆえ自治体が入り込むのはせんえつと考えられてきたが、これらは水害対策という危機管理上の問題なのだ。

 気候変動を背景にして、雨量が増え続けている。田んぼダムには即効性があり、地域全体で取り組めば、期待以上の効果をもたらせるかもしれない。自治体は、あぜの維持管理作業費を委託費として支出することを考慮してでも、田んぼダムづくりを行ってほしい。国からの交付金を受け、農家を説得してほしい。田植えから収穫期の秋ごろまで、日本にあっては、いつ集中豪雨や台風に襲われても不思議ではない。その治水のために取り組むべし。

 どの自治体も田んぼダムづくりだけではなく、住宅地の安全を考慮すれば、一時的でも公園や競技場も給水池に転じることができるようにしておかねばならない。ゆっくりゆっくり水を流すことができれば、水害の被害を小さくできる。河川の心配をするだけではなく、自治体は被害を小さくするためにあらゆることを考えておかねばならない。

 私は愛するいとこを水害で亡くした。しかも遺体は海まで流されたのか、発見できなかった。水害の恐怖心は、そのとき以来である。1人や2人の力では、水害から命を守れないのだ。

 
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