わが国の法律で「スポーツ」なる語を用いているものは4本ある。「スポーツ」が、国民生活や教育の中で重要な存在になるにつれ、法律が必要となった。オリンピックやアジア大会、各種目の世界選手権大会等の大会が毎年世界各地で開催される。各競技団体や選手たちが負担する金は大きく、困り果てた。
1967年、私が日ソ対抗のレスリング日本代表となりソ連遠征に行くことになったが、友人たちが寄付を集めてくれて参加した。当時、海外遠征費用は自己負担だったため、たいていはカンパに頼った。しかし、強者は年に数度も遠征するとなると頭を抱えるしかなかった。政府はオリンピックとアジア大会の一部費用は負担したものの、出場者の負担は常識だった。スポーツ予算なんて微々たるもので、強化費もないに等しい状況だった。
それで、1998年に議員立法によって「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」が成立した。いわゆる「サッカーくじ法」(toto)である。私自身も法案主要提出者の1人で、衆参の文教委員会(当時)の答弁席に立った。「文部省が、スポーツ振興のためといえど、ギャンブルの法律を作るなんて認められません」と共産党の女性代議士の質問。「先生は、ギャンブルは悪の権化のごとく話されましたが、先生自身も選挙というギャンブルに勝って国会におられます。進学も結婚もギャンブルです。100円の振興券ですからお認め下さい」と、私の答弁。委員会は大爆笑で終わった。
この法律を持ち出したのは、中学校の運動部活動の地域移行を行うに当たり、費用がかかるが、その財源に前述の「スポーツ振興くじ(toto)」からの助成が検討されているからだ。生徒たちは学校内の部活をする際、負担はゼロなのに民間クラブが受け皿となった場合は若干の費用負担となる。その費用をtotoで賄う案が現実味を帯びている。
昨年の売り上げは1千億円を超えた。バスケットボールのB1やラグビーのトップリーグ等もtotoに組み入れれば、当初の目標だった1800億に達する可能性がある。B1の参入は決定しているので売り上げの伸びは期待できる。欧州ではtotoが一般化していて歴史も古い。学校内で部活を持たないため、民間クラブに子どもたちを入れてスポーツを楽しませてきた。日本も欧州並みになってきたのだ。
教員の休日確保が、部活の地域移行、民間クラブ指導を2025年までに達成したいスポーツ庁だが、そもそも部活は学校教育の一環であるため、全てを外部に委託するのは問題である。指導者の資格問題も定まらず、大枠だけが先行しているが、スポーツ庁は各自治体に丸投げして条例で律するのも策であろう。地域格差があまりにも大きく、政府主導では地方が移行できないケースも考えられるのだ。
全国中学校体育連盟は、一つの中学単位のチームだけではなく、複数の中学生が参加する民間クラブのチームの大会出場を認めることにした。高体連や高校野球連盟も同様の決定をしていて、学校単位にこだわらない。自治体が主導することによって、中学生の部活が元気になる可能性がある。教育委員会の学校教育と社会教育の各課が研究し、文化部の活動も民営化に移行させる発想も期待したい。
学校の施設を活用し、教員に兼業兼職の許可を限定的に与えるようにする。兼業兼職を全ての教員に与えれば自宅で塾を開講する者が出現する。公務員の枠が外されるような許可であってはならない。あくまでも部活延長上の兼業兼職でなければならない。指導者は、教員だけでは不足するだろうから、教育委員会が条例で対応することになる。各自治体は、その選考委員会も発足すべし、だ。
柔道、剣道、なぎなた、空手、相撲といった競技者人口を減少させている部も自治体は復活させてほしい。野球、サッカー、バレーボール、バスケットボール、そしてソフトボール、ハンドボールやホッケーも種目に加えてほしい。民営化移行をチャンスとして捉え、スポーツと文化の振興の起爆剤にすべきである。