大学の研修会で、北海道医療大学の浅香正博学長によるがん予防の講演を拝聴した。「タバコは絶対いけません」と声高に講師が叫ぶ。どの医者も同様のことをオウム返しに言う。「70歳を過ぎた高齢者は、タバコをやめても効果はありません」、手遅れらしいのだ。ヘビースモーカーだった私は、4回もがんに見舞われ入院が続いた。で、喫煙場所もなく観念した。闘病中、タバコを吸いたいとも思わなくなり、簡単に不思議なことに禁煙することができたのである。「禁煙しよう、しよう」と考えれば考えるほど、弱い精神はその逆を行く。さすがに入院して、体のあちこちに管を通されて治療を受けていると、タバコどころの話でなくなり、本気になって健康を考える。
2020年4月、受動喫煙対策を強化するため、改正健康増進法が施行された。わが日体大も喫煙室や喫煙コーナーを全面的に撤去、キャンパス内では喫煙できなくなった。そうするとウワサが飛ぶ。「理事長が禁煙したから吸う場所をなくした」というもので、法律を恨まず、私を恨む愛煙家たちがいた。この法律は、不特定多数の人が利用する施設は、原則禁煙とするもの。ただ、小規模の喫茶店や飲食店等、煙が外に漏れない建物内の喫煙専用室は例外となっている。
最近、コンビニに行ってもタバコ売り場が縮小の傾向にある。加熱式タバコや電子タバコに変更する喫煙者が増えたからだろうか。各自治体にとって、「タバコ税」は貴重な地方税で、けっこうな収入源でもあったが、それよりも住民の健康を重視せねばならなくなったのだ。タバコの規制は世界的に拡大していて、日本がタバコの葉を輸入しているトルコまでもが屋内を禁煙にする法律を成立させた。
世界保健機関の調査によると、既に67カ国は禁煙だけではなく、販売や宣伝を対象にした規制をも強化しているという。私が国会に議席を得た1996年当時、委員会の中で喫煙できるほどのおおらかさであった。やがて喫煙できる場所に犯人を追い込むように指定したりして禁煙者の増加に努力した。喫煙者だった私も体験したが、食後の一服はうまく満足感を与えてくれた一方、カゼをひいたり体調不良になるとタバコを吸う気にならなくなった。健康のバロメーターだと喫煙者たちはのたまったが、習慣病患者だったのだ。
共同通信の報道によると、ニュージーランド政府は2009年以降に生まれた子どもが生涯にわたってタバコを吸えなくするという。現行法では18歳から喫煙できるが、やがて「タバコのない国」へと転じることになる。時間がかかろうとも確かな法律で喫煙者をなくそうとしているのである。ニュージーランドの成人の喫煙率は11%、そのうち喫煙者のいない国に転じるが、タバコは密輸、密造の品となり闇市場が誕生することになろうか。
喫煙は、医学上好ましくないゆえ、各自治体もタバコの扱いについて本気になって考えるべきである。住民の健康を守ることは、自治体の優先すべき政策であるはずだ。たとえ「タバコ税」の収入がなくなろうとも禁煙策を研究する必要がある。「ポイ捨て禁止」の条例では甘すぎる。タバコ関連業者の反対があろうとも、住民の健康第一主義を貫徹してほしい。タバコを値上げしても、それほど禁煙者は増加しない。このアメリカ・インディアンの始めたタバコは、現代社会のガンになっている。電子タバコについても規制が求められる。ブラジルや香港では、「若者の喫煙者が増える」という理由で販売禁止策を取っている。
自治体で、どうすれば禁煙者を増やすことができるかを研究してほしい。日本たばこ産業という会社は、禁煙者の増加を見込んで他の商品に活路を見いだしている。世界中で人気が高かった日本のタバコも、もう外貨の稼げない商品になってしまう。まず、タバコ販売の自動販売機の設置禁止、撤去から始めてもいいだろうし、住民への啓蒙を積極的に行う必要がある。旅館やホテルも室内の禁煙を徹底すべきである。タバコは命を削る爆弾なのだから。