【地方再生・創生論 289】二度、三度、訪れたく伊那路 松浪健四郎


松浪氏

 長野県伊那市に知人がいるので、東京から伊那路をドライブした。中央高速を走り、諏訪湖から駒ケ根市の手前にある伊那ICで降りる。駒ケ根市にJICAの青年海外協力隊の研修所があるため、講師として毎年のようにバスで往来したコースを懐かしく感じ入る。

 諏訪湖周辺にも、「寒天」の製品工場があって、なぜ寒天が長野県で作られるのか不思議に思っていたが、寒い地方での製造が適していると知った。その製品大手メーカーである伊那食品工業が伊那市にあるのだ。私は無知で、「寒天」が全国で作られている「羊羹(ようかん)」の大切な原料の一つなのだと教えられた。母親が弁当箱のフタで寒天(ところてん)を作ってくれた原料が、長野県の特産品だった。

 寒天は海藻の「テングサ」で作られる。東京都の伊豆諸島産が多く、天然冷凍、天日乾燥のテングサを用いる。食物繊維が豊富で低カロリー、健康食品として人気が高まっている。サラダにもよく使われているけれど、東京都の特産物だとはビックリするしかない。

 伊那食品工業は、和菓子の原料からスタートしたが、現在では医薬・バイオ等の新市場を開拓し、長野県を代表する企業でもある。本社は小鳥のさえずる森の中にあり、「かんてんパパガーデン」の一角だ。このガーデンこそが、他の企業と異なる人々の憩いの場を形成する。伊那市民の自慢する施設を、地元の企業が造っているのだ。レストランをはじめ、美術館、ホール、健康パビリオン、そしてモンテリイナと呼ばれる食品や生活用品を売る店もある。どの建物も立派だし、ホールでの催物も一流、会社の姿勢が伝わってくる。文化力の高い長野県だから、このガーデンが異彩を放っているのか、評価される施設といえる。

 明治4年の廃藩置県で取り壊された高遠城跡へ行く。日本三大桜の名所として有名で、城内に1500本のタカトオコヒガンザクラが植えられている。ライトアップもされるというから、ぜひ、春のシーズンに訪れる必要がある。古木の枝の張りが見事、花のつけた桜を見たくなる。城跡を探索するのも楽しい。

 高遠町歴史博物館を訪ねた。地方特有の楽しい品々が陳列されていて歴史を学ぶ。江戸時代に活躍した高遠藩の石材加工の職人たちの作品もいい。石仏が、この町周辺のあちこちにある理由がよく理解できた。この博物館に隣接する「絵島囲み屋敷」に興味をもった。江戸時代、幕府の大年寄の絵島が歌舞伎役者と恋をして、高遠藩に流された「絵島生島事件」。絵島が幽閉された屋敷が復元されているのだ。ぐるりと屋敷を回って見学する。恋の自由もなかった時代、身分の差別が大きかった時代を想像しながら歩く。

 この地方、あちこちにそば屋さんがある。伝統野菜である親田辛味大根の入った汁(つゆ)で食べる。ピリッとしてうまい。このおろしそばは、店によって味が異なるらしいが信州そばの特徴を学ぶ。藩主だった保科正之公が、あちこちに辛つゆの信州そばを広めたという。地元の人たちは、このそばを「高遠そば」と呼び、人気高いらしい。駒ケ根市でも有名なソースかつ丼が、伊那でも愛されていた。各店のソースの独得の味が秘伝で、肉を際立たせる。

 この信州の伊那市だけでも1泊2日では足りない。伊那路を南から北へ回っても、時間が足りない。毎月のように各種のイベントがあり、いつ訪れても満足できる観光地だと知る。

 自治体も観光協会と共に伊那路の魅力を説き、観光に力を入れている。農業民泊という農家と交流する体験型宿泊もある。海外からの観光客にも人気があるといい、みそ作りまで体験できる工場もある。スキー場もあれば、温泉もある。南アルプス、中央アルプスという山々に囲まれた伊那市、誇れる観光地となっていた。

 あらゆる面での観光開発、伊那市の努力に敬服するしかない。どの自治体も学ぶべき点が多いと思われる。二度、三度と訪れたくなる伊那路、羊羹を食べながら思い出す。

 
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