【地方再生・創生論 293】町の書店は住民の栄養剤 松浪健四郎


松浪氏

 ハッピーマンデーがあったりして、休日が増加しているのは喜ばしい。休養にもなるし、旅行をしたり余暇を楽しんだり、趣味を生かすこともできる。日本生産性本部の余暇創研の「レジャー白書2022」によると、余暇活動の第1位は読書である。2位が動画鑑賞、3位が音楽鑑賞、そして外食だという。

 本が売れない、新聞の発行部数が減少といわれ、活字文化が危ないと声高に叫ばれて久しいにもかかわらず、余暇活動のトップが読書とは驚くしかない。が、本を読むといっても、単行本なのか、それとも電子出版によるものか判然としないが、本を読む人が多数いる日本人はまだまだ文化人の国民なのだ。だが、近年、本屋さんのない自治体が増加する一方で、読書ファンたちを困らせている。図書館派も多いが、私などは書店で購入するのを楽しみにするだけに、本屋さんがないとガッカリするタイプである。

 活字文化は、文化人をつくるだけではなく、住民のビタミン剤となる。先日、茨城県の常総市を訪れた。露店が祭りで並んでいたが、そこに古本屋さんを発見。地域の出版物を多数買った。貴重な資料で、特に鬼怒川や小貝川、そして利根川等の大水・洪水についての詳細な刊行物を手中にした。多分、それほどの商売にならないだろうが、どんな本が売れるかどうかは店頭に置いて分かる。

 読売新聞のコラム(2022年11月1日)が目にとまった。書店「ゼロ軒の町・出店公募」という見出しで、富山県立山町には1軒の本屋さんもないため、町が補助金を出して書店の公募を開始したという。家賃を月額8万円まで町が出し、建物の改修や備品購入費も200万円を上限に3分の2を助成するそうだ。本屋さんがあれば、老若男女も立ち寄るだろうし、親が子どもを連れて読書の動機づけ、本の面白さを学ばせることができる。

 昨今、駅近辺のビルには、大手の書店がある。雑誌をはじめ、あらゆるジャンルの本が売られている。かつての地方の書店は、学区内の小中学校の教科書を販売する権利のようなものがあったが、少子化でその権利も大きな収入に結びつかず、店をたたんでしまった。地域社会の文化的交流の拠点がなくなり、本好きの人たちは大店舗へと流れてしまう。本好きの人は、月に何度かは書店に足を運ぶ習性を持つ。好きな作家の新刊本を求めて、私自身も今も書店に直行する1人である。

 富山県の立山町は、公募で書店を誘致しようと必死になっているが、読売新聞は自ら書店を作った自治体を紹介している。福井県敦賀市は、2022年9月に「市公設書店」である「ちえなみき」を開業させた。3万冊の蔵書というから、立派な書店といっていい。住民と行政が対話を重ねた結果、北陸新幹線開業に合わせ、敦賀駅周辺の大規模な再開発事業計画に乗せたのだ。図書館ではなく、書店にした慧眼(けいがん)に敬意を表したい。

 「借りる」と「買う」は、同じ書物を手中にしようとも決意と覚悟が違う。金を出す行為は、その人間の魂の軽重と人間性で異なる。敦賀市のこの前例が全国に普及することを期待したい。ちなみに2016年、青森県八戸市が「八戸ブックセンター」を市営書店として開業、市民の文化拠点として定着している。

 敦賀市の「ちえなみき」は、新刊本や絶版本、洋書、古書までも並べ、大手の書店も運営に参画しているという。報道によれば、1カ月で来訪者は1万人に達し、2300人余が本を購入したと伝えている。

 子どもたちが、貯金をして、好きな本を買いに来る日もやがて訪れる。本好きの子ども、住民をつくる作業は、じわりと地域を元気にする。私たちは活字文化を大切にして、豊かな心持つ人づくりに熱心でなければならない。

 大学の図書館は、学問の府としての心臓であるが、町の書店は住民の大切な栄養剤である。読売新聞は、「本屋がほしい」というキャンペーンを張ったが、行政にまで届いただろうか。

 

 
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