【地方再生・創生論 298】日本を代表する名園「栗林公園」 松浪健四郎


 特別名勝に指定されている栗林(りつりん)公園(香川県高松市)に行ってきた。「特別名勝」というのは、国宝級を意味し、全国でも多くはない。名だたる庭園は各地にあるが、栗林公園は最大の広さをもつ。それだけに、ゆっくり見物するには時間がかかるため、高松市を訪れても行く機会がなかなかなかった。

 この公園は、世界的で日本を代表する名園といえる。香川県の管理施設で、その歴史は古い。16世紀後半、豪族の佐藤氏によって築庭されたのが始まりで、1642年に高松藩主となった松平頼重公(水戸光圀公の兄)に引き継がれたという。以来、松平家は200年以上の時間をかけて完成させたのである。

 民主主義の現代社会ならば、これだけ広大な公園はできない。「不必要」「ムダ使い」と言って、反対者が大声をあげるに違いない。2020年の東京五輪前の国立競技場が国際コンペで決定していたのに、「金がかかりすぎる」という理由で、平凡な競技場へと変更された。世界のどの国の遺産も、たいていは時の権力者がパワーにもの言わせ、信仰の対象として、力の象徴として、築造したと言える。で、歴史を重ねるうちに評価されるようになる。また、名物となろうか。公金たる税を使って立派な後世に遺せる施設を造れる時代でなくなったが、株式会社の民間組織なら、採算さえ合えばすごい施設を造れる。しかし、栗林公園の庭園の樹木は歴史を感じさせる樹木が多いゆえ、一朝一夕では造れない見事な公園だ。

 樹木は2種類あるように映った。一つは毎年のように職人が手入れし、あたかも盆栽であるかのように造られた樹木。もう一つは、パリの自然史博物館や東京・青山墓地の樹木と同様、人が手を入れずに自然に任せて育てている樹木である。伸び放題、枝の張り方がテントのようでもある。ところが、この2種類の樹木が、うまい具合に調和しているのに感心する。

 この公園の特徴は、黒松、赤松を問わず、圧倒的に松が多くて主役を演じていた。桜が少ないのは、樹齢が50、60年と短いからだろうか。1本だけ高さも幅もある大木の五葉松には腰を抜かされた。松は約1400本あり、そのうち千本は約300年間も手入れを続けてきたとパンフレットに記述されていた。

 太い立派な五葉松は、「根上り五葉松」と呼称され、徳川11代将軍の家斉公から参勤交代の折に賜った盆栽を地植えしたもの。恐ろしく大きく成長し、太い根が数本1メートル近く上っている上に、根元もすごい。あちこちに1本1本足を止めさせる見事な樹木がある。

 「根上り五葉松」の側に江戸時代に築造された「掬月亭(きくつきてい)」なる茶屋風の建物がある。休憩をとりながら抹茶をいただく。前方の南湖に浮かぶ小島を眺めながら風景を楽しむ。殿様になったような錯覚を楽しみつつ周囲を見る。すると、「掬月亭」の後方にソテツの林を発見する。大庭園の一角に大きなソテツ30株が植えられていた。ちょっぴりエキゾチックだ。

 鹿児島の島津公から贈られたソテツだという。高松は雨が少なく温暖であるからか、ソテツが4、5メートルの高さまで育って異彩を放つ。広い池がいくつもあり、南湖だけは小船で遊覧できる。船頭の解説も上手で楽しめる。花しょうぶ園もあるので、紅葉の季節等と年中、異なった風景を楽しめる工夫がされている。池の水は、池泉回遊式でニシキゴイの群れが美しい。

 紙幅がないため、栗林公園の詳細を記述できないのが残念だが、この公園の売りは「日本一の松」である。大きな松が、あたかも盆栽であるかのように素晴らしい。

 私たちは、何でも「日本一」と言われると行ってみたくなる。中途半端なものを造るより、「日本一」になるように計画すれば、人を呼ぶことができる。観光客を満足させる各種の施設もよい。

 背景となる紫雲山を公園のバックにした超一流の公園、行き届いた県の管理、ボランティアガイドにも感心した。香川県が、相当な力を入れて観光施設として売り出そうとしている努力が伝わってきた。もう一度、行きたいと思う魅力がある。

 
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