私は職場の健康診断で「糖尿病」と言われ、専門医から治療を受けるようにと指導された。すぐに大学病院の専門医にかかり、現在も治療中である。月に1回は病院へ行き、医師の指導のもと、食前の血糖値を測定したり、インスリン自己注射を熱心にしたりする患者である。
糖尿病は、薬剤の著しい進歩と発達によって合併症の発症や進行を抑えられるようになったと聞く。私の母親は、糖尿病の合併症からくる心筋梗塞であろうか、70歳で鬼籍に入った。私は遺伝による糖尿病だと勝手に判断していたが、酒を飲まない甘党だから、余計に糖尿病にかかると決めつけていた。ともかく多忙であれ、月1回の定期的な通院と服薬を欠かさない。
合併症の恐さは母親の例で経験したから、重症化を予防するために注意している。日々の生活の中で、糖尿病だから困るという症状の出ない病気ゆえ、ついつい自己注射を忘れたり、薬剤の携行を忘れる。朝、家を出る際、注射器や薬をチェックする習慣が最近やっとついたところだ。血糖値管理と同時に医師に言われるのは体重管理である。「食べるのを少し控えましょう」と指導されたり、少し筋肉トレーニングをして下さいと言われたりする。
毎週2回、ジムに通って筋肉トレーニングに精を出し、筋肉をつける食事に変えた。体を動かす必要があるので、歩くことにも気を使う。自覚症状が乏しい病気だから、注意していないと悪化したり合併症が進む。この病気は自分との闘いだと決めつけて、自分を律する姿勢が大切だと思っている。だいたい働き盛りの男性は、面倒くさく感じて病院へ行かない。私もその仲間だったが、今は定期的にきちんと受診する患者へと転じた。
受診しているとき、「尿の出がおかしいのです」と医師に相談したところ、泌尿科の専門医を紹介され「前立腺がん」と「悪性リンパ腫」の二つのがんを発見していただいた。まさに一病息災、その治療も受けて完治した。「悪性リンパ腫」の治療のため入院したところ、膵臓(すいぞう)がんを発見していただいた。ステージ2、早速の手術となった。3週間の入院であったが、九死に一生を得た。もとはと言えば、糖尿病のおかげであった。
ともあれ、自覚症状のない糖尿病は、やっかいである。仕事があり、なかなか治療を受けることが難しい。厚生労働省研究班の調査によると、「仕事や学業が忙しい」「医療費の経済的負担が大きい」「体調が悪くないため」等の理由によって治療を受けなかったり、中断したりしている。治療の継続が大切であるため、国は糖尿病の治療と就労の両立支援のための資料を刊行したりしている。
だが、通院するかどうかは自己責任と決めつける傾向にある。治療を受けないと悪化し、どんどん重症化する。その予防のためには、国がモデル事業として、勤務先企業に糖尿病患者への配慮を働き掛ける取り組みが始まった。が、私はそれだけでは十分だとは思わない。私自身が患者であるがゆえ、よく分かる。自治体の協力も必要なのである。
日本糖尿病学会のシンポジウムでも、「忙しい」という理由で治療を中断する患者が多いと報告された。がんや脳卒中などと同様、「治療と仕事の両立支援」が求められるのだ。そこで、糖尿病患者は自治体に登録し、自治体は企業や職場に対して配慮してもらうべく「治療支援手帳」のようなものを発行して、患者を応援すべきではないか。糖尿病の重症化は恐いだけに自治体が本気になって支援する必要がある。職場に配慮を働き掛ける使命感を自治体は住民の患者のために持つべきだ。
私が体験したように、月に1度でも治療を受けることにより、他の病気の発見にもつながる。とりわけ、がんのようにステージの若い症状なら完治するのだから、自治体は病人に対しても積極的であってほしい。「治療支援手帳」を作り、住民と共に患者を支援する自治体であれば、やがて医療費の削減にも寄与するばかりか、命の尊さを伝えることもできようか。