【地方再生・創生論 304】「稲むら火」の教えを今に 松浪健四郎


 自民党本部の5階に「国土強靱(きょうじん)化委員会本部」がある。5年以上も自民党幹事長を務められた二階俊博代議士が、会長として陣取られている。毎日、全国からの陳情客でごった返す。自然災害王国だけあって、北海道から沖縄まで、文字通り全国から訪れる。アポイントを取るのにも苦労する。なかなか順番が回ってこないのだ。二階代議士は、フェアプレーを信条として持たれているため、大物の紹介があろうとも順番である。全国の人たちが、どれだけ自然災害に脅えているかを肌を通して知っているからだ。

 2023年1月29日付の産経新聞を読んで、私は本稿を書くことにした。「『稲むらの火』梧陵さんの教え今も」と題した「探訪」欄、大きな広川町(和歌山県)の浜口梧陵の築いた松の木が覆う海岸沿いの堤防が語りかけてくる。「災害を忘れるな」。自然のパワーは想像を超える。

 二階代議士は、広川町の近くの御坊市出身、津波をもたらせた太平洋に面した故郷をもつ。で、二階代議士は、「防災」と「観光」をテーマに議席を得る。私は、阪神・淡路大震災の後に二階代議士と行動を共にするようになったが、二階先生ほど自らのテーマに執念を燃やす政治家を私は知らない。「東海道・南海トラフ地震対策措置法」は、委員長提案による法律となって、審議なしで成立した珍しい法律だ。が、そのために二階先生はどれだけ根回しに苦労したか、側近だった私はよく知っている。浜口梧陵に負けない執念、津波の恐ろしさを体験している人ならではの行動であった。この法は「二階法」と言ってもよい。

 1946(昭和21年)年の南海地震は、和歌山県をも襲った。梧陵の堤防は、人々を救った。地元の人々の防災意識の高さも手伝って犠牲者を出さなかった。この地震を二階先生は経験し、紀伊半島の被害を目の当たりにした。地震のみならず、台風、集中豪雨、河川決壊等は全国でみられ被害地を予想することすら許されない。暴風雨もあれば豪雪もある。そして火山大国。あらゆる自然災害が襲ってくる。

 私たちの小学校時代、バスでの遠足は広川町の堤防、御坊市のアメリカ村と灯台の見学であった。津波の怖さと浜口梧陵の「稲むらの火」を学び、アメリカ移民の話や海の安全を教えられた。が、「稲むらの火」は教科書にあったので興味深かった。公共のために1人の民間人が協力して人々を救う。この話は戦前から教科書に載せられていた。多くの話はGHQによって消されたにもかかわらず、「稲むらの火」は残された。ところが、近代化されつつあった日本、昭和の終盤ごろからなぜか消えた。「東南海・南海トラフ地震対策措置法」が成立した際、二階先生から私に文部科学省と交渉して教科書に載せるべきだとの話があり、その結果、副読本に掲載されるようになった。もう20年近く前の話である。

 政治というのは、眼前のテーマには熱心に取り組むが、いつやって来るか明確でないテーマについてはパスされてしまう。民主党が政権を担った折、二階先生等が提出した「津波対策法」は捨て置かれた。で、その直後、3・11の東日本大震災が起こった。八ッ場ダム工事中止も民主党政策だったが、後の自民党政権が工事を終えて多くの人々を救った。でも、選挙民は「コンクリートから人へ」というスローガンに酔ったことを忘れることができない。

 国連は平成27年、11月5日を「世界津波の日」と決めた。この日は「稲むらの火」の記念日だ。二階先生が先頭に立って在京の各国大使館を回って協力をお願いしたのである。私も数カ国の大使にお願いをした。「津波」は日本語だが、今では世界中で「ツナミ」が使われ国際語となっている。外国人は、私の名を「ツナミ」と呼び、「マ」を省略する。

 どの自治体にあっても、防災について住民に意識を高めるような政策を打ち出してほしい。同時に「平和」の大切さも植えつけてほしい。私たちは、少子高齢化をはじめ、多くの災難と対峙(たいじ)させねばならない宿命にあるのだ。

 
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