【地方再生・創生論 306】部活動の地域移行、指針を見直し 松浪健四郎


 これほどひどい政策変更があるだろうか。「部活地域移行目標設定せず」(産経新聞)と大きな活字が踊った。スポーツ庁と文化庁が、指針を見直したのである。指針案では、令和7年度末までに公立中学の休日の部活動を地域団体や民間事業者に移行させるとしていたが、見直すこととなった。早期に実現させるというが、地域の実情に応じてやればいいと見直した。スポーツ庁などは、地域社会の現実を理解していなかったのである。

 私のもとに多くの自治体から相談があった。指導者の選定をどうするか。教員の兼職をどう扱うか。生徒たちの払う費用をどうするか。これらの問いにスポーツ庁は回答できなかったと決めつけてもよい。

 あまりにも地域格差がありすぎて、地域移行は容易でないとスポーツ庁は悟ったようだ。地方へ行けば行くほど指導者不足に陥る。指導者の基準をどうするのか、スポーツ庁は示さなかった。公立学校教員の兼業兼職が認められていないため、ボランティア活動とするのか。これでは働き方改革に反するばかりか、教員の負担が大きくなってしまう。学校内の部活動の費用は無料なのに、移行することによって負担の問題が出てくる。将来的には、スポーツ庁はサッカーくじの売り上げで賄う予定でいたが準備不足。ニッチもサッチも行かなくなってしまったのだ。

 私は各自治体に、指導者の選定は条例で定めるべし、費用はクラウドファンディングのような寄付金を考えるべし、教員への手当ては「出張費」として支出すればどうかと語ってきた。指導者の選定は、スポーツ面だけにとどまらず、文化面においても困難が伴う。レベルの問題も、経験値も、人格面も問題となろうか。都市部には、多様な人材がいるだろうが、地方では人員をそろえるのは難しい。アルバイトの大学生を起用するにしても地方では難しい。

 スポーツ庁は、なぜ、この拙速な地域移行を考えたのだろうか。教員の働き方改革と少子化である。支援学校だけが生徒数を増加させているが、全国の小中学校は縮小の一途で部活の部員も減少するばかり。いくつかの中学校の生徒を一つにまとめて部活動を継続させるというアイデア、考え方は悪くないが地域格差の大きさを考慮しなかったとの一言に尽きる。

 今回の指針見直しは合理的ではある。まず、教員の兼業を認めるという。地域移行の達成目標時期を設定しない。令和5年から7年度は「改革推進期間」とする。地域移行の体制整備が困難な場合は、運営主体を学校にしたまま外部指導者として地域人材を配置する。8年度以降に体制整備を進める自治体にも財政支援をする。

 ただ、外部指導者の認定については触れておらず、自治体任せの印象を受ける。また教員の兼業を認めるというが、全ての教員を指すのか判然としない。数学や英語の教員が、塾を経営することができるのかどうかにも触れていない。やがてこの指針見直しが再度ある可能性がある。でないと混乱が生じる。

 部活動地域移行問題を考える際、自治体内にある各種のスポーツジムの協力についても考慮すべきだと思う。柔道、剣道、空手、ボクシング、体操、水泳、野球、洋弓、弓道等のクラブやチームがある。この際、これらの団体への支援も考えるべきだ。スポーツ振興のために貢献されているに加え、指導者が存在する。費用の一部を自治体が負担することによって、より多くの生徒たちが参加する。

 音楽やバレエ等の文化面も同様である。各自治体が条例によってスポーツ振興策を独自に推進し、単に部活動の民間移行だけを考えるべきではない。スポーツ文化立国を目指すならば、次なる振興策が求められる。指導者がいて、既に活動中である組織を有効活用してほしい。

 私は中学校に柔道部がなかったので、警察署内の道場クラブで柔道に打ち込んだ。中学校には、それほど多くのスポーツ部や文化部がない。民営化に移行させるだけでは、ただの対処法でしかない。

 
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