【地方再生・創生論 310】16億人のイスラム教徒を活用すべし 松浪健四郎


 もう随分と昔の話になってしまった。アフガニスタン国立カブール大学の教壇に3年間立ち、帰国後、専修大学に迎えられた。32歳で専任講師だった。専修大には教養ゼミという選択2単位の科目があり、私は「シルクロードとイスラム文化」という講座を開いた。シルクロードのブームもあって多くの学生たちが受講してくれた。が、若い私の指導は厳しく、毎年10名ほどしか残らなかった。

 有難いことに優秀な学生たちが巣立ち、各界で活躍してくれている。そのうちの1人である福島康博君が、このほど、『イスラームで許されるビジネス・ハラール産業とイスラーム金融』(インターブックス社)を出版した。私の教養ゼミを選択して、初めてイスラム教やその文化を学んだ学生が、立派な専門書を刊行するまでに育った。教師冥利に尽きる話だが、私との出会いがなければ、福島君はイスラム文化などにのめり込まなかったに違いない。

 私は、興味も手伝って、瞬く間に読破した。そして、多くの人たちに読んでいただき、地球上に16億人もいるイスラム教徒たちとの経済や文化の交流を、さらに深めてほしいと感じ入った。特に、自治体の幹部に、商工会議所の役員の皆さんに読んでいただき、イスラム教国とのさまざまな交流を研究してほしいと願う。

 著者は、EU市場や北米市場よりもマーケットは大きいと述べ、商品やサービスの提供を考えるべきだと主張する。そのためには、ハラール認証についての知識が求められる。ハラールとは、宗教と食品衛生の専門家(ハラール認証機関)が、ハラールであるかどうかの検査をして、その製品を認めれば認証機関のマークが与えられる。イスラム法に則り、基準をクリアしているという認定である。食品に限らず、原料に非イスラム品が使用されておれば輸出できないため、認証団体と相談する必要がある。わが国には9カ所の主要な団体と機関が設置されている。

 イラン女性が頭髪を隠すためにヘジャブという布を用いるが、その着用が悪いといって警察に連行され、死亡した事件はイランを揺るがしている。イスラムの習慣であるのだが、イラン女性たちは戒律が厳しすぎると政府に抗議し、国民も同調しているのだ。日本のユニクロは、「ハナ・タジマ・フォー・ユニクロ」というブランド名でヘジャブ(ヴェール)の商品展開を行っている。また、各商社は、女性たちの身に着ける衣服の生地を輸出するにとどまらず、男性衣服の生地までも輸出していて、日本製品の人気はトップである。

 イスラム教徒は毎日5回の礼拝を熱心に行う。が、日本には礼拝所が準備されていない。それでも外国人イスラム観光客が多く集まる空港や東京駅では、簡易の礼拝所を設置している。観光客の増加が見込まれるだけに、礼拝所を設けて売りにする策も考えられようか。食品、衣類、観光、レストラン、土産品等、イスラム教徒を対象にした商品開発を急ぎ、欧米がそれほど力を注いでこなかった面の対策を練る必要がある。

 インドネシアで、かつて味の素の製品に豚の脂が使用されていて問題となったが、ハラールを理解して商売と結び付けるべきである。イスラム教徒たちは、料理にラードをよく使う。ほとんど日本製だが、これはテンプラ油の使用済みのもので作ると耳にした。大きな商売でなくとも、販路を開拓する意味でもハラール産業を研究するといい。

 福島君の著作は、その意味でも絶好の参考書といえる。医療、製薬、サプリメント、観光、ホテル、レストラン等から加工、食品、販売、サービスまで幅広く研究して生きたビジネスを展開すべきである。これだけ地球が小さくなったのだから、16億人のイスラム教徒を活用すべし。

 最後に、旅行者を含めて日本には常時20万人のイスラム教徒が生活をしている。今後はさらに増加すると思われるゆえ、国も自治体も企業も無視することなくイスラム教徒と接することを忘れてはならない。

 
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