【地方再生・創生論 333】支援学校教育はいまだ不十分 松浪健四郎


 私の米国留学した州立東ミシガン大は、古い歴史を誇る高等師範学校であった。それだけに教育学部が充実していて、小中高の教員養成に人気があった。キャンパス内には付属の養護学校(現在の支援学校)があり、教育学部生たちは実習で障害児たちを指導した。私たち体育学科の学生たちは、障害児たちにスポーツを教えた。私は、マット運動と水泳を担当し、文字通り「教えることは学ぶことである」を体験した。

 この貴重な体験は、やがて日体大理事長に就任した私に、「日体大高等支援学校」を創設させることとなる。必ず共生社会の時代がやってくる。障害をもちたくて障害者になった人はいない。全ての人たちに体育やスポーツの楽しさを学んでほしい、この信念が日本初の大学法人が設置する支援学校を誕生させたのである。ましてや私立大が設置するのは、大変な冒険であったといえる。少人数の生徒に対して多くの教員が必要な学校、採算がとれるかどうかの前例がない。が、明治24年から教員養成を続けてきた日体大の矜持(きょうじ)、理事会は設置を決定し、網走市の大自然の中に市の協力を得てスタートを切った。

 私たちは知的障害者の生徒を全国から募集している。近くに女満別空港があり、東京から1時間30分で学校に着く。北海道のオホーツクの風土が、障害者たちにどんな影響を与えるか、私たちの壮大な実験がスタートして7年がたった。既に4回の卒業式を行ったが、毎回、式典では涙があふれる。

 全国に支援学校は1178校がある。そのうち私立は15校で、大学付属は日体大の支援学校1校にとどまる。経営的には私立は苦しい。だが、日体大の場合、支援学校教員免許を取得するための実習校にしている。で、日体大は毎年、支援学校教員の採用が日本一である。

 さて、日本の子どもたちが大変だと新聞が報じる。「小中学生8・8%が発達障害か、35人学級なら3人」(毎日新聞)と書く。文科省が公立の学校で調査した結果の数字だ。精通した教員が足りず、どの自治体も困っているという報道である。

 学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症等をまとめて「発達障害」と呼ぶが、10年前よりも増加しているというのだ。なのに適切な支援のできる特別支援教育の知識ある教員が少ないため、きちんと教育できていないと心配する。国立の教育系大学には、付属の支援学校があり、教員免許(支援)を出しているが、悲しいことに彼らは一般企業へとなびく。共生社会で活躍しようと夢もつ学生が少数にとどまっているのが現状だ。

 政府も自治体も支援学校教育に今以上の熱心さが問われている。「発達障害」の子どもたちは、周囲の適切なサポートが不十分だと、不登校やいじめにつながる可能性がある。彼らはデリケートで、一般の子どもたちとは異なる。手厚いサポートが必要なのである。日体大付属高は、寮生活のためにサポートがさらに求められ、人件費で経営が苦しむ。さりとて、費用を高額にはできず、支援学校の難しさを味わっている。昨今、どの自治体も熱心に支援学校教育と取り組んではいるが、まだまだ不十分であるという認識が必要だ。

 公立小中学校の8割に特別支援学級がある。ところが、校長や教頭の7割以上が特別支援教育に携わっていないため、学級の理解不足が多々あるという。今後は、幹部候補教員には支援教育を経験させるべきであろう。

 子どもの問題だけではなく、生徒一人一人の家庭問題もある。両親はできるだけ特別支援学級に入れたがらない傾向があるが、やはり専門の教育を受けさせるべきである。高校生ぐらいになると発達障害者は減少するが、それは特別支援学校に進学する生徒もいるからである。

 ともかく、社会生活が営めるように障害者を導くために、私たちはもっと今よりも障害者教育に取り組まねばならない。日体大に続く大学の出現を待っているが、無理なようだ。

 
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