和歌山県の観光客誘致戦略
IRは県観光の芯になる 大阪との共存は十分可能
世界遺産や豊かな自然、温泉などを持つ和歌山県だが、まだまだ知られていない観光資源も多い。どうポテンシャルを引き出し、観光客を誘致するのか、仁坂吉伸知事の手腕に期待がかかる。IR(統合型リゾート)にも強い意欲を示す知事に県の観光戦略を聞いた。(聞き手=本社論説委員・内井高弘)
――2018年度の観光入り込み数は。
入り込み総数は3462万人、外国人宿泊客数47万9千人で、いずれも史上最高を記録した16年(総数3487万人、外国人50万人)に次ぐ2番目の多さだった。集中豪雨や台風の接近で主要観光地も被害を受け、宿泊施設の休業などもあったが、前年に比べ増加したのはこれまで取り組んできた施策効果による「和歌山の魅力」の浸透が大きいと考えている。
――10連休だったゴールデンウイークは。
当県も好調に推移し、10日間の入り込み総数は108万人、1日平均約10万8千人だった。過去6年間で最高の数字だ。
――和歌山の魅力を改めてうかがいたい。
自然の豊かさ、温泉の多さ、山の美しさ、奇麗な川、海岸線の美しさと豊富な海の幸、果物、歴史的資産など何でもある。日本人が好きなパンダは日本一の飼育頭数を誇る。観光のポテンシャルは極めて高く、それを証明しているのが外部の評価の高さだ。
世界的なガイドブック、ロンリープラネットの「Best in Travel2018」で、紀伊半島が「訪れるべき世界の10地域」で日本で唯一ベスト5に選ばれた。また、エアビー・アンド・ビーの「2019年に訪れるべき19の観光地」でも当県が日本で唯一選ばれている。
――「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されて今年で15年になる。記念事業的なものはやっているのか。
三重県や奈良県と連携し、4聖地(高野・熊野・伊勢・吉野)を巡る3泊4日のツアーを企画、7月中旬から募集を始めている。
また、和歌山単独では、10月から県内の旅館・ホテルで1回の旅行につき2泊以上連続して泊まった人を対象に「10万円プレゼントキャンペーン」や世界遺産登録社寺などでの特別公開、ウオークイベントなどを実施する。これに先立ち、9月には世界遺産の価値の継承とさらなる魅力を国内外に発信するため、各界著名人の方々にご参画いただく「高野山・熊野を愛する100人の会」を立ち上げる。三重や奈良でも15周年を記念した単独事業を行う方針だ。
――観光ポテンシャルの高い和歌山だが、観光客に楽しみ方を提供することも重要だ。
力を入れているのはサイクリングで、コースは全長800キロに及ぶ。海、山、川といった大自然の魅力を満喫できる環境を整え、「WAKAYAMA800」として国内外に発信している。
和歌山で走って良かったと思われるよう、屋内で自転車の保管ができ、空気入れや修理工具の貸し出しを行うなどの条件を満たした宿を「サイクリストに優しい宿」として認定(56件)するとともに、サイクリストの方々が気軽に立ち寄って休憩することができるサイクルステーションの拡大(239カ所)など環境整備にも努めている。
――「水の国、わかやま。」キャンペーンも展開している。
絶景、温泉など水にまつわる観光スポットを紹介するとともに、「水をみる」「水が創る」「水と遊ぶ」など水を切り口にテーマ設定を行い、まだ知られていない魅力を発信している。例えば、串本町の奇岩群「橋杭岩」はインスタ映えする場所として日本一であり、また串本沿岸海域はラムサール条約登録湿地でもある。カヌーやいかだ下り、キャニオニングなど、水のアクティビティも充実している。
このほか、100のストーリーで知的好奇心を満たす「わかやま歴史物語100」や五つの日本遺産、南紀熊野ジオパークなどもある。
――訪日客の受け入れは。
トイレやフリーWi―Fiの整備、キャッシュレス決済の推進、顔パスで買い物や食事ができる顔認証システムの実証実験、多言語電話通訳・簡易翻訳サービスの提供などに取り組んでいる。
トイレについては、下水道未整備のところを除くと、洗浄機付き便座にしており、自慢の施設だ。また、Wi―Fiは都道府県別人口千人当たりの設置数では全国2位となっている。
――課題といえば。
宿泊施設の耐震はほとんど改修が済んでおり、しっかり対応しているが、問題は絶対数が不足していること。バックパッカーを受け入れることができるユースホステル的なものから、富裕層向けの超高級ホテルまで、消費者の選択肢をもっと増やす必要がある。
――IRの誘致に熱心だ。
IRができると、和歌山の観光に芯が通る。県の経済発展や人口減少に歯止めをかけるための有効な手段と考えている。
マリーナシティをIRの候補地としているが、ここは関西国際空港や京阪神に近く、施設の着工が容易で投資効率も高い。何よりマリンスポーツ・レジャーの聖地でもあり、リゾート型IRとして最適だ。大阪府市が目指すIRとはコンセプトが異なり、共存は十分可能だ。シンガポールにはマリーナ・ベイとセントーサ島にIRがあるが、大阪と和歌山はまさしくこのケースにあたる。
政府は当初、3カ所のIRを認定する方針だが、不確定要素はあるものの、私は和歌山がこのうちの一つになると確信している。マイナス要因は何もない。普通にいけば大丈夫だろう。
――小型ロケットの打ち上げ射場としても名乗りを挙げている。
昨年3月、スペースワンが串本町に国内民間初となる小型ロケット射場を建設することを決めた。21年度の完工、初打ち上げの予定だ。通信・観測を主な目的とする小型ロケットはビジネスとしての需要が高まっており、ロケット射場としての地位を固めることで、ロケット基地の和歌山をアピールしていく。経済波及効果も高く、新たな観光資源としても期待できる。
仁坂吉伸 和歌山県知事
仁坂 吉伸氏(にさか・よしのぶ)東大経卒。1974年通商産業省(現経済産業省)入省。生活産業局総務課長、大臣官房審議官、製造産業局次長などを経て、2003年ブルネイ国大使。06年和歌山県知事就任。現在4期目。和歌山市出身、68歳。