信金の存在意義とコロナ禍の取り組み
震災契機に文化が変わる 全国のネットワーク生かし、さまざまな支援活動
東京都全域と神奈川県の16市郡を営業地域とする城南信用金庫は、本業の金融に加えて「日本を明るく元気に」と、全国の地方創生、観光振興に向けたさまざまな取り組みをしている。コロナ禍の現在の取り組みを、信金の存在意義を含めて川本恭治理事長に聞いた。(聞き手=本社・森田淳)
――「日本を明るく元気に」と、さまざまな取り組みを進めている。
川本 全国249の信用金庫と自治体、マスコミ、大学、そしてわれわれ信用金庫のお客さまである1万社を超える企業とネットワークを築いている。自治体ではこの11月、県としては初めて和歌山県に、このネットワークに参画していただく。さまざまな業種の方々と連携して、日々活動している。
具体的事例として、5年前からお酒を造っている。「絆舞(きずなまい)」という日本酒で、全ての都道府県のお米をわれわれのネットワークで集めて、福島県の会津の酒蔵で造っている。昨年は全国164地域のお米を集めて造った。今年はさらにバージョンアップして、全国211地域の米を使い、今まさに仕込んでいるところだ。1本お買い求めいただくごとに100円を東日本大震災の被災地等に寄付している。
東京の桜美林大学では寄付講座を開講した。震災や新型コロナで大きな打撃を受けているいわき市(福島県)の観光復興を目指したもので、学生の皆さんに1年間かけて、講座の受講や現地に行くなどして、いわき市を盛り上げるさまざまなアイデアを出してもらった。「こうしたら旅館にお客さんが来てもらえる」など、1年間の学習の成果を市長の前で発表してもらった。いわき市は提言を実現すべく、取り組みを進めている。
シダックスを創業した志太勤さんが、地域観光紹介の多言語サイトにつながるQRコード付きのステッカーを全国に貼付する取り組みをしている。コロナ禍で大変な状況だが、「いつかはお客さんが来てくれる。そのときの盛り上げの一助に」と、行っているものだ。
城南信用金庫は、全国の自治体とのつながりを生かして、志太さんの取り組みを支援している。志太さんに自治体を紹介しているのだが、志太さんは全国約1700の自治体全てに普及させたいと意欲的だ。既に500近くの自治体が協力している。
全国の観光土産品事業者の支援もしている。全国観光土産品連盟と連携協定を結び、全国の信用金庫が作ったサイトに土産品を紹介、販売する特集ページを設けた。連盟会員の利用は無料で、続々と登録をいただいている。
東日本大震災の翌年から、被災地支援や地方創生をテーマに「よい仕事おこしフェア」を東京で開催。直近では全国520の企業に出展いただくとともに、芸能人の方々に参加をいただき地元の観光をPRしてもらっている。
――地方創生、観光振興に取り組み始めたきっかけは。
川本 10年前の東日本大震災がきっかけだ。
震災の年から約4年、石巻(宮城県)のお寺の軒先を借りてプレハブを建てて、職員6~7人が一つのチームで1週間交代で泊まり込みでボランティア活動を行ってきた。全職員の半分近くが参加した。
「東京の信用金庫がなぜ、東北を応援するのか」と言われたが、昔は東北の高校を出て、城南に就職する人がたくさんいた。だから今の職員の中で奥さんやお母さんが東北出身という人が多くいて、とてもひとごとではなかった。
地震が起きて1週間後ぐらいだったか、東北の家に連絡がつかず、行けもせずで、心配で仕方がないという職員が多くいた。だから、取引のある会社にお願いをしてバスを仕立てて、希望のある職員を乗せて1人ずつ家に送り届けていった。そのとき東北の惨状を目の当たりにして、「何かしなければ」と始まったのが、このボランティア活動だった。
そこで会社の文化が大きく変わった。
翌年、1回目の「よい仕事おこしフェア」を開催。さらに東北の状況もだんだん落ち着いてきて、つながりをさらに全国に広めようと、今に至っている。
――コロナ禍での本業の取り組みは。
川本 2020年度は、コロナでお困りの皆さまに4368億円の融資をさせていただいた。預金も2375億円増えている。今までなかったほどの数字だ。
1年間の新規の融資先は約4800社。現在、約3万社に融資をしているので、1年間で約1・5割、融資先が増えたことになる。地域の皆さまにこれだけ頼っていただいていることは、今までわれわれが行ってきた取り組みが認められた証しだと思っている。
職員に感染者が出ても、われわれは店を閉めるわけにはいかない。だから国の要請もあり、当初は2班体制で対応して、どちらかの班に感染者が出ても、もう一つの班で対応できるようにした。職員の負担は大変だったが、みんな頑張ってくれた。
――信用金庫ならではの特徴について。銀行と異なる点は。
川本 銀行は株式会社でほとんどが上場しており、株主のために毎期利益を上げなければならない。信用金庫は株式会社ではなく、生協のような協同組織だ。利益を上げることは大事だが、銀行ほどこだわる必要がない。目先の利益よりも地域の発展とお客さまの笑顔の実現を目指している。
「銀行に成り下がるな」と言い、お客さま本位に基づいた取り組みを徹底した小原鐵五郎・元会長の教えが生きている。われわれは「金(信用金庫)は銀(銀行)よりも上」と自負して、日々誇りを持って営業に努めている。
――信用金庫は地域の顧客を対象に団体旅行も企画している。
川本 城南の旅行は至れり尽くせりで、高齢者の方も「城南の旅行なら行ってもいいよ」と家族に言われるという。
今はコロナでストップしているが、皆さま楽しみにしていらっしゃる。観光業界の皆さまからも知恵をいただいて、コロナ禍の中でも安心、安全に行ける旅行というものを考えて、来年にはぜひ復活させたい。
川本理事長