【学術×現場 6】「奥さま、ご飯のお代わりはこちらに」旅館に潜むジェンダー平等問題 福島規子


 不倫関係と思しき年の離れた2人連れの男女が宿泊した際、年配の係が、女性客に「奥さま、お飲み物はいかがなさいますか」と尋ねたところ、「私、奥さまじゃないんで」と言下に否定されたという。係は憤慨しながら「あれはどう見ても不倫でしょ。普通、奥さまと言われたら喜ぶものじゃないのッ」と言い放つ。否、「奥さまと呼ばれたら喜ぶ」という発想自体に問題がある。係の言動には、女は家にいるもの、結婚して専業主婦になるのが女の幸せといった固定観念や偏見が見え隠れする。

 そもそも入り口から離れた「奥」に居る人のことを差す「奥さま」には、社会から隔離されているイメージがある。仮に、件の男女が職場不倫だとしたら、社会の第一線で働く女性にとって、「奥さま」の呼称は、プライドをいたく傷つけたのかもしれない。

 ところで、北九州市立大学名誉教授の水本光美氏が行った配偶者の呼称に関する研究によると、男性が自身の配偶者を呼ぶときの呼称は「妻」「家内」「嫁(さん)」の順で多く、女性が自身の配偶者を呼ぶときは「夫」「主人」「旦那(さん)」の順で多いことが明らかになっている(「日本語とジェンダー」第17号、2017年)。

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