【山崎まゆみの「ちょっと よろしいですか」42】コロナと共に宿づくり 温泉エッセイスト 山崎まゆみ


 コロナのまん延により休館を余儀なくされた旅館・ホテルは、オンラインビジネスに力を入れていたようです。福島県岳温泉のオンラインショップ「買って応援! がんばっぺ! 岳温泉商店街」と熊本県黒川温泉組合オンラインストアはどちらも5月1日にオープンしました。

 静岡県桜田温泉山芳園もオンラインショップを強化。こだわりの源泉を注文できるようになりました。山芳園の吉田広美さんの言葉が印象的でした。

 「自粛生活に関わらず、これからもさまざまな理由で温泉地に出掛けられないこともあると思いますので、宿は非日常のお手伝い、オンラインショップは日常のお手伝いをさせていただきます」。

 緊急事態宣言は解除されていますが、「新しい生活様式」を求められる中では、これまで通りに営業し、収益を上げることは難しい。ですからオンラインショップの展開や優れたプロモーションも考えなければなりません。

 休館中の旅館ホテルの皆さんの斬新な取り組みを講談社ウェブメディア「現代ビジネス」に書きましたが、こちらでも好事例をご紹介します。

 兵庫県有馬温泉の若手有志は、「湯めぐりVR」と題し、有馬温泉入浴VR動画を4月17日に公開。4K対応のVRゴーグルを装着し、自宅のお風呂に漬かりながら動画を見るというもの。再生回数が1万回を超えたそうです。「国内向けに開始したのですが、現在はロシアやアメリカでもよく見られています」(有馬温泉・金井一篤さん)。

 テレビでもたびたび取り上げられていた福井県あわら温泉グランディア芳泉の「ご自宅は温泉旅館」プランは、会席夕食4人分、日本酒1本(4合)、源泉10リットル、浴衣と帯セット4人分(浴衣帯はレンタル)がセット一式、さらに若女将と料理長、スタッフが、チェックイン、チェックアウト、夕食の説明をし、酒や温泉入浴の解説をしてくれる動画が付いて2万9千円(4人分)。これらを旅館に取りに行きます。

 「入学祝い、誕生日、古希の祝いとお祝い事に使ってくださっています」(グランディア芳泉・山口高澄さん)。

 山形県小野川温泉や福島県飯坂温泉、土湯温泉の若旦那が考案した「おうちで温泉旅館ごっこ」。温泉旅館を訪れた際に使う浴衣、丹前、御膳、座椅子、座布団、ごとく(固形燃料)、ごとく用の鍋(陶板)、おしぼり。これら旅館の道具一式を貸し出します。旅館によっては料理やお酒、デザートに食器もセットに含みます。料金は浴衣とお膳などの基本セットの貸し出しは500円で、旅館によっては旅館利用の前売り券やクーポンなどを組み合わせるそうです。

 これからの旅館やホテルは、こうあるべきという縛りからの解放が必要であると考えます。ルームチャージと温泉(大浴場)提供だけの宿があってもいい。ドミトリーが増えるなら、若者に旅を誘いやすい。またこの機にバリアフリー化を徹するのなら、すぐ前の先に来ている団塊の世代の超高齢化にも備えられます。

 今後、ますます旅館・ホテルの個性や多様化が求められてきます。

 例えば、都市からアクセスの良い観光地や温泉地なら町全体でWi―Fiを完備し、低価格の部屋貸しのシステムを作れば、かねてより言われてきたワーケーションが実現できます。コロナによるテレワークの導入で、働き方が見直されて以来、観光地や温泉地の役割が変化しそうです。

 ピンチをチャンスにし、新しい宿泊業の在り方を探る日々が始まりますね。

(温泉エッセイスト)

 
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