【岐路 バスと観光新たな関係】高速ツアーバス誕生から終焉まで11 成定竜一


 2010年12月、国土交通省自動車局に「バス事業のあり方検討会」が設置された。委員の顔ぶれは、まず学識経験者、有識者の先生方。次にバスおよび旅行業界の事業者団体、労働組合の代表。さらに行政からは自動車局に加え、警察庁や観光庁などの代表であった。

 議題は二つ。高速バス分野の制度のあり方と、貸し切りバス分野の安全確保策である。

 ただ、初回(各団体から意見の表明)の時点から、多くの時間が前者に割かれた。事務局から「本日は貸し切りバスが議題です」と念押しがあった回でさえ(手元に配布される資料も貸し切りバスについてであったが)、いつの間にか議論は高速バスの話題に移っていった。

 大雑把に言うと、日本バス協会およびバス業界の労組代表の主張は「ツアーバス業態の禁止」であり、高速ツアーバス連絡協議会の主張は「既存の高速乗合バス、高速ツアーバス、双方の長所を取り取り入れた新しい制度の構築」であった。

 前者の言い分は、おおむね「現実」「理念」の二面に大別される。「現実」面では、高速ツアーバスの安全性(運行を受託する中小貸し切りバス事業者の法令遵守状況)が問題だとした。「理念」面では、消費者から見るとほぼ同様の商品が別々の規制の下で営業されていることとが問題だとした。

 また、既存の高速乗合バス事業者の多くは地元で地域の路線バス事業を行っているが、それらは赤字基調であり、高速バス分野の利益で内部補助して維持しているのに「ツアーバス各社は、儲かる事業だけを行っているので不公平」という主張もあった。

 繰り返し書いているように、当時の高速ツアーバスの安全性に疑問があったことは否定しがたく、高速ツアーバス側の代表としては肩身の狭い会議であった。いやそれより、筆者自身が、学生バイトながら既存事業者出身であるから、立ち位置が全く異なる新参者を毛嫌いする気持ちはよく理解できた。

 公共交通の担い手として強い使命感を持つ彼らからすれば、運行面の質はおおむね低いのに、ウェブマーケティングを駆使してどんどん成長する高速ツアーバスは、理屈抜きで本能的に許せない存在だったはずである。

(高速バスマーケティング研究所代表)

 
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