本連載の開始から先週(11月12日付)まで、貸し切りバスの安全対策や業界事情を解説してきた。今号からは筆者の専門分野である高速バスについて、業界の歴史や概要をご説明した上で、今後の観光産業に資する点について考察する。
皆さまは「高速バス」にどんな印象をお持ちだろうか。「お金のない学生が倹約のため利用する」「一晩中バスに乗るのは体力的に厳しい」というネガティブなイメージが多いだろう。最近は、ほぼ個室になるような超豪華バスも登場し、メディアで紹介されることも多いので「最近は豪華らしいね」という反応をいただくことも増えたが、マイナー感は拭えない。
実態はどうだろうか。わが国の高速バスの年間輸送人員は約1億2千万人。航空の国内線合計が約9千万人であるから、輸送人員ベースでは鉄道に次ぐ、堂々第2の幹線輸送モードである。また、多くの方が思い描く「夜行」のイメージとは裏腹に、毎日1万便以上が運行される高速バスのうち、夜行便は1割程度に過ぎない。
ボリュームが大きいのは、所要時間が1~3時間程度の区間を、30分間隔など高頻度で運行される昼行の高速バスである。多くの人のイメージと実態は大きく異なる。それはなぜだろう。
高速道路を走行していると、本線の脇に高速バスの停留所が設置されている。
渋滞ポイントとして有名になってしまった「元八王子(東京都)」や「綾瀬(神奈川県)」といった都市周辺はともかく、地方部では山の中や一面の田畑の中にあるケースも多く、いったい誰が利用するのかと不思議に感じたことはないだろうか。
今年4月に開業した、新しい新宿高速バスターミナル(愛称「バスタ新宿」)や、東京駅、大阪梅田、福岡天神などの高速バスターミナルを、特に夕方、のぞいてみてもらいたい。
聞いたことのない小さな街々に向け高速バスが続々と発車する。「これほど多くの人たちが、この時間から、いったい何のためにこれらの街に出かけるのだろう」と感じるはずだ。
高速バスには不思議な点がたくさんある。
(高速バスマーケティング研究所代表)