高速乗合バスを含む乗合バス(一般的な表現では路線バス)では、乗客の乗降は一部の例外を除き停留所においてのみ認められている。ところが、停留所は新設が極めて困難なのである。
ちなみに高速ツアーバスの場合は募集型企画旅行であるから、駐停車禁止の箇所以外では乗降自由であり、各社は「●●ビル前」など集合場所名を勝手に設定できた。
乗合バス事業は、法的には2002年から新規参入が積極的に認められてはいたが、新規参入を試みたものの停留所を確保できずに断念せざるを得なかったケースは山ほどある。一方、既存事業者が自らが使用している停留所を活用し、増発や新路線開設を行うことは比較的ハードルが低かったから、新規参入を目指す者にとっては既得権益と映っていた。
法律は「新規参入を受け入れ」ていながら、実態は「見えない壁」があったわけで、規制緩和の趣旨が達成できているとは言えなかったが、こと長距離高速バスの分野に限っては、高速ツアーバスという業態を選択することでその「壁」を無効化していた(なお、地域の路線バスや短距離高速バスでは、旅行業法のしばりの中で事前に決済を済ませる必要がある点が手軽な乗車を妨げる、という市場側の理由によりこの方法は通じなかった)。
高速ツアーバス各社に高速乗合バスへの移行を迫るのは、だから、何の手も打たなければ彼らは停留所を確保できず、そのために乗合事業の許可を取得できず、結果として高速バス事業から撤退を余儀なくされる、ということを意味した。
既存高速乗合バス陣営は「停留所確保は自助努力で行うのが当然」と繰り返した。だが、そうなってしまえば高速ツアーバス各社は事業を継続できなくなる。
激しい議論の末、「今回は国の政策として移行させるのであるから、今回に限っては、国土交通省が停留所確保の調整を担う」ことに決まり、「高速バス停留所調整ガイドライン」が策定された。警察や自治体など、多くの関係当局との調整の末、絶妙なバランスの上でなんとかギリギリ成立した、事務局(国土交通省自動車局)の力作であった。
(高速バスマーケティング研究所代表)