ここまで、既存の高速乗合バスと、新しく生まれた高速ツアーバス(現在は高速乗合バスに一本化され「移行組」などと呼ばれる)の歴史を振り返った。
これまでの歩みをまとめると、わが国の高速バス市場は年間輸送人員1億2千万人と、国内線航空を上回る規模があるが、そのうち9割以上を「既存組」が占める。彼らは、地方部で高い認知を誇っており、高速バス事業はこれまで「地方の人の都市への足」として成長してきた。
その内訳をみると、長距離の夜行路線(東京―青森など)も一部に存在するが、ほとんどは短・中距離を、30分間隔など高頻度で運行される昼行路線(東京―長野、福岡―宮崎など)であり、全国に稠密(ちゅうみつ)な路線網が敷かれている。
また、市場開拓が遅れていた大都市間路線(東京―大阪、名古屋、仙台)では、後発参入した高速ツアーバス各社が中心となって、ウェブマーケティングを活用し、成長した。
「地方→大都市」(第1の市場)、「大都市→→大都市」(第2の市場)が既にある。それならば、高速バス業界が次に目指すべき「第3の市場」は、「大都市などから全国各地への、主に個人観光客の取り込み」であることは、簡単に想像がつく。
一見すると観光産業と親和性が大きそうな高速バスだが、実際には観光客の利用は驚くほど少ない。富士五湖のように鉄道よりバスが便利な観光地への路線や、夜行でテーマパークに向かう学生など、ごく一部に限定される。
だが、国内客、訪日客共に旅行形態は団体から個人へシフトしており、貸し切りバスを利用するバスツアーの減少分の多くは、高速バスへの転移が期待できる。それを実現するためには、いったい何が必要だろうか。もちろん、既に定着している「第1」「第2」の両市場でも、成長を目指さねばならない。
来週からは、それぞれの市場において高速バス業界がどのように戦っていくべきか、その成長戦略を考えたい。
(高速バスマーケティング研究所代表)