東京を発着する夜行高速バスは、現在、北は五所川原市、むつ市(いずれも青森県)から四国各県、さらに福岡まで、特に鉄道が不便な地域ではかなりの中小都市にも運行されている。だが、近年の環境変化により、路線ごとに好不調が分かれている。
例えば、東京と富山県、石川県を結ぶ路線は夜行高速バスのドル箱路線であったが、北陸新幹線の金沢開業以降は低迷している。
鉄道だと乗り換えが必要であった頃は老若男女の利用があったが、新幹線開業により直通化した上に訪問先での有効滞在時間が伸び、出張客などはあえて夜行を選ぶ必要がなくなったのだ。
高速バスの利用者は、価格に敏感な若者や、何らかの理由で夜行移動の方が都合いい人たちに限定されてしまった(余談だが、短距離区間では、新幹線が開業すると高速バスの需要が増加する。短距離では所要時間短縮の効果が限定的な一方で、鉄道とバスの価格差はいくぶん拡大するからである)。
また、東京と四国各県を結ぶ路線で言えば、数年前から東京―高松、松山線が急失速したのに対し、東京―徳島、高知線は引き続き安定している。この差が何かといえば、前の2県には成田空港からLCC(格安航空会社)が就航した点だ。つまり、価格に敏感だから高速バスを利用している層は、当然、他の交通機関の価格が下がれば転移するのである。
さらに、2002年からは高速ツアーバスが容認され、高速バス同士の競争も開始された。彼らが得意とするウェブマーケティングにより市場が拡大したことは間違いないが、(高速バスの認知がほとんど進んでいなかった大都市間路線と違い)元から地元に定着していた地方路線では拡大余地には限界があり、シェア争いを始めることとなった。
このような背景を考えると、高速バス「第1の市場」(地方の人の都市への足)のうち、長距離、夜行路線については、一部に安定した路線はあるものの、全体的にみると市場の拡大は期待できず、むしろ縮小傾向の中でいかに収益を確保し路線を維持するか、という点が重要になる。
(高速バスマーケティング研究所代表)